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(昨夜は優しくした。……ティアリーゼが目覚めないのは私のせいではない)
自分にそう言い聞かせる。
獣に近いシュクルは、やはり本能に従う。当然、夜も人間のティアリーゼには少々きつかった。いつまでもいつまでも、自分が満足するまで求め続けるからだ。
本来、人間よりも獣の性を色濃く示す亜人――シュクルたちは獣人と呼ぶ――は、楽しみのためにそういった行為をしない。
もちろん、一部にはそういった獣もいるが、シュクルにも正直それが楽しいことだとは思えなかった。
ただ、とても幸せな時間だということは理解している。
ティアリーゼの泣き顔を見るのが好きで、甘やかな肌が赤く染まるのが好きで、ふうわりと香る雌の匂いが好きで。
――危ない、とシュクルは考えることをやめた。
朝から襲うと怒られてしまう。尻尾の手入れをされなくなるのも辛いが、あまりにひどいことがあると、ティアリーゼはシュクルと眠ってくれなくなるのだ。
もう一度、ティアリーゼが目覚めることを期待して鳴いてみる。
しかし、残念ながら閉じたまぶたは開かなかった。
(先に食事を済ませる。それから、ティアリーゼを見に来る)
自分の中でこの後のことを決め、衣服を整えてから外に向かった。
シュクルの朝食は簡素なものである。
基本的には肉類が多く、人間のもののように手がかけられている状態は好まない。
特に好むのは狩りたての獣の生肉だが、ティアリーゼのことを気にしてあまり口にしていなかった。
あれを口にした後、人間がするように求愛行動――ティアリーゼはキスと言っていた――を取ると絶妙に避けられるのだ。
テーブルについたシュクルの前に、使用人たちが食事を用意する。
彼らはシュクルの父の代から勤める優秀な獣たちだった。
なぜ城で働いているのか、なんのためにそうしているのか、シュクルにはいまいちわかっていない。
ティアリーゼに「どのように給金を与えているのか」と尋ねられたときは首を傾げたものだった。
トトに確認すれば、彼ら使用人たちはそうして動き回ることこそを生きがいとしており、魔王に生涯を捧げるのが幸せだとのことだった。
シュクルには当然、わからない。そもそもあまり魔王としての自覚がないせいで。
(……これはティアリーゼの好きなもの)
並んだ皿のひとつに、赤い木の実が飾られた菓子があった。
ティアリーゼが共に食事をするようになってから、こういったいわゆるデザートと呼ばれるものが供されている。
なんだかよくわからない味がするため、シュクルは正直好んでいない。
ただ、それを食べて嬉しそうにするティアリーゼは好きだった。
甘いものが好きだ――と言っていたが、シュクルが甘いと感じるのはティアリーゼと、血の滴る生肉である。言っては叱られるような気がして言えていないが。
支度が整うと、シュクルはひとりぼっちの食事を始めた。
ティアリーゼを待つという発想はない。シュクルは自分の気の向くままに行動し、周りの者もそれに合わせる。そういった生活が当然だったためだった。
眠っているティアリーゼを起こすのも気が引ける。だったら自分だけで構わないと思うが、それはそれで寂しかった。
ティアリーゼがいれば話し相手になってくれる。
シュクルは会話を得意としていないが、ティアリーゼの声を聞くのは好きだった。
ときどきなにを言っているか理解できずにわからなくなることもあるが、都度、シュクルのために説明してくれるところもいい。ティアリーゼを独占しているようで非常に気分がよかった。
ゆっくりゆっくり、シュクルは食事をする。
いろいろなことをのんびり考えるため、どうしても動きは鈍くなった。