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「他に、髪を少し、爪のかけらを少し、角も先の方を砕いた」
「えっ」
「牙はやめておいた。他に瞳と心臓に価値があると言われたが、さすがに困る」
「そんな、そこまでして……」
「鱗は自分で剥がせなかった。どちらにせよ、痛いだろうから嫌だな。だが、これだけでも欲しいものは得られた。私の身体のどこに価値があるのか、教えてくれたトトには感謝せねば」
「……っ」
平気な顔をして語るシュクルに勢いよく飛びつく。
「ごめんなさい、私が綺麗になりたいなんて言ったから……」
「なにを謝るのかわからない」
「だってあなた、自分の身体を削ってアクセサリーを手に入れてきたんでしょう?」
「それでお前が昨日よりも美しくなれるなら構わない」
ほがらかに言ったシュクルは、抱き着かれたのが嬉しかったのか尻尾を振っていた。
なにを言えばいいかわからず、ただぎゅうっと抱き締める。
そのまっすぐすぎる思いが胸に痛かった。
「ありがとう。本当にありがとう……。とびきり大切なお祝いごとのときのために取っておくわ」
「いつになるかわからないだろう。私は今、お前の身体を飾りたい」
シュクルは首飾りのひとつを手に取る。
いつもティアリーゼを愛おしげに見つめる青い瞳と同じ色の石が嵌め込まれていた。
ティアリーゼの首にかけたかと思うと、嬉しそうに頬を緩める。
「私の気持ちだ。伝わっただろうか」
「うん、とっても」
感謝の気持ちを込めて、シュクルに触れるだけの口付けを贈る。
それを何度か繰り返してから、よくされるように舌を差し入れた。
ほんの一瞬、シュクルの身体がびくりと反応する。
おずおずと回された腕がティアリーゼの背中を抱き締めた。
触れた場所から、少しずつぬくもりが混ざり合う。爬虫類らしく体温の低いシュクルは、こういうときに熱くなるのも早かった。
「ティアリーゼ」
熱に浮かされたような囁きが落ちる。
「昨夜ほどはしないと約束するから。……私にお前をくれ」
「……いいわ」
シュクルは一度だけ自分から口付けると、すぐにティアリーゼの身体を抱え上げた。
細身の割に力があるのは、本性が人ではないからだろう。
とさり、とティアリーゼの身体がベッドの上に下ろされる。
覆いかぶさったシュクルの首に腕を回すと、人間の姿でも確認できるそこの鱗を指で撫でた。
「もうひとつだけ約束してくれる?」
「うん?」
「ひとりで目を覚ますのは寂しいの。だから、私が起きるまでちゃんとここにいて」
「わかった。明日はお前が目を覚ますまで抱き締めておくことにする」
「……うん」
シュクルの膝がティアリーゼの両足を割る。
先ほどよりも口付けは熱っぽくなっていた。
今夜もまた、二人は触れ合う。
溶け合ってひとつになるまで――。