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戻ったキッカが見たのは、衝撃的なものだった。
「お前、どうしたんだよ……それ……」
「あ、これ? 拾ったの」
セランが抱えていたそれは、どう見ても卵である。
ひと抱えもあることから、ただの鳥ではなく亜人のものだとわかった。
「拾ったって大きさじゃねぇだろ」
「でも、落ちてたものは落ちてたし……。中庭にぽつんと置いてあったの。なんだか寒そうだから持ってきちゃった」
「お、おう」
セランが産んだものではないらしい――と少しほっとしたのは言わないでおく。
「誰か、親は周りにいなかったのかよ?」
「ううん。しばらく見守ってたけど誰も来なかった。ちょっとの間は外に毛布を持って行って温めてたんだよ。でも、いつまでも来ないからおかしいなぁって」
「……まぁ、温めてやろうって判断は間違ってねぇよ」
放っておけばこの卵は孵らずに朽ちていただろう。
人間であるセランがどこまで鳥の生態に詳しいのかはわからなかったが、その行為は間違っていない。
「けどさ。それ、もし孵ったら大変だぞ」
「なんで?」
「最初に見たもんを親だと思うから」
「……えっ、本当の親じゃないのに?」
「俺見てりゃわかるだろ。鳥ってちょっと馬鹿なんだよ」
「う、うーん」
キッカだけでなく、鳥たちは基本的に記憶力が弱い。
絶対に忘れてはならないと意気込んで卵を飛び出すからこそ、最初に見たものに全神経を向けてしまう。
その結果、どんなに姿形が違っていようと、親だと思ってしまうのだった。
「本当のご両親はどこにいるんだろう。キッカ、探せる?」
「すぐに見つかりゃいいけどな。わざと置いてったんだとしたら……」
言いかけて、キッカははっとした。
「カッコウか?」
「え?」
「や、他の奴に子育てさせる奴らがいるんだ。もしかしたら、たまたまお前が選ばれただけなのかもと思ってさ」
「自分の子供なのに、自分で育てないの……?」
「俺に聞かれても、なんでそんなことするかわかんねぇもん」
二人はひとつの卵を前に困ってしまった。
毛布でくるまれた卵は微かに温かく、とくんとくんと小さな鼓動を感じられる。中にいる子供が生きているのは間違いない。
しかし、触れてみてキッカは首を傾げた。
「なんか、柔らかくね?」
「ちょっとぷよぷよしてるよね。でも、それがどうかしたの?」
「それ、鳥のじゃねぇな」
やけに弾力のある白い卵は、キッカの言う通り鳥のものに比べるとだいぶ柔らかい。
「……セラン。それ、なんかいい感じに抱えられるか? 毛布にくるんだ状態で」
「えっ? う、うん。どうしたの?」
「シュシュんとこ行く。たぶん、俺よりあいつの方が詳しい」
知識としてはないだろうが、シュクルには獣としての本能がある。
キッカにはもうわかっていた。
セランの持つ卵が鳥のものではなく、爬虫類に属する獣のものだと。




