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「難しいとかなんとか言ったって、元の姿でするわけにはいかねぇだろ。怪我させたらどうするんだ」
「悲しい」
「だろ?」
シュクルもキッカも獣の姿を取るときは人間よりもずっと大きくなる。
その姿でつがいに甘えてしまえば、潰してしまいかねなかった。
更に、彼らには鋭い爪や牙がある。羽毛で覆われているキッカならばまだいいだろうが、ざらついた鱗を持つシュクルはより危険だろう。
「いや、それにしてもお前がなー……そういうこと言うなんてなー……」
「わからない」
「割と父親気分だったからさ、俺。シュシュが成長したんだーと思うと複雑な気持ちになるわけ。誰だって巣立ちのときは切なくなるもんだろ」
「わからない」
「早くお前んとこに子供ができればいいんだ。そうすりゃわかるよ」
軽く笑って、キッカは立ち上がる。
「もう行くのか」
「寂しいならそう言えよ」
帰宅を遅らせるかとキッカが再び椅子に腰かけようとしたそのとき、部屋のドアが開いた。
「ただいま、シュクル」
「ティアリーゼ」
戻ってきたティアリーゼを見てシュクルが思い切り尻尾を振った。
そのまま駆け寄って抱き締めたかと思うと、額をぐりぐり押し付け始める。
「いたた、ちょっと落ち着い――。……あら? キッカさん?」
「よう。邪魔してるぜ」
「もう帰っていい」
「お前な」
さっきは寂しそうだったくせに、ティアリーゼが帰ってきた途端もうこれである。
「まあいいけどな」
ティアリーゼは渋ったが、キッカはそのまま帰ることにした。
バルコニーに出て、雲ひとつない空を見上げる。
「あんなの見たら、俺も会いたくなるじゃん?」
ふ、と瞬きの間にその姿が鷹のそれに変わる。
そうして金鷹の魔王は遠慮なくいちゃつく夫婦を置いて、自分のつがいのもとへ戻ったのだった。




