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「シュシュー」
今日もキッカはふらりとシュクルのもとを訪れた。
同じ魔王でありながら友人でもあるシュクルは、以前は見せなかった嫌そうな顔をして尾を振っている。
「また来たのか」
「前はそんなこと言わなかったくせに。お前もかわいくなくなったよなー」
シュクルが不満げなのは、キッカが来ると妻のティアリーゼとの時間を削ることになるからである。
しかし今日、シュクルの部屋にティアリーゼの姿がない。
「嫁は?」
「出掛けている。女同士の買い物が必要なときもあるとのことだった」
「女同士? 友達とか、そういう?」
「いかにも」
ティアリーゼが出掛けたのは世話係の亜人、メルチゥ。
そんなことなど知らないキッカは、友人と出掛けた話を聞けば自分の妻が大騒ぎするだろうことを考えた。
「それじゃ、俺が来て嫌な顔する必要ねぇじゃん。まったく」
「いつティアリーゼが戻るかわからない」
「ほんっとお前、嫁のことしか頭にないのな」
「いかにも」
「いかにも、じゃねぇよ」
シュクルが誇らしげな理由はよくわからない。
「ときに、クゥクゥ。なにをしに来たのか聞いても? どうせまたどうでもいい話をしにきたのか?」
「どうでもいいって言うな、どうでもいいって。俺にとっちゃいつでも真剣なんだよ」
そう言って、キッカは勝手に椅子へ腰を下ろす。
「お前、嫁との間にまだ子供できてねぇよな?」
「いかにも。残念だ」
ふりふりとシュクルの尾が揺れた。
自分の子を産んでほしいと頼み込んだのが、シュクルとティアリーゼの始まりだと聞いている。
それを考えれば、なかなか子ができないことをシュクルがもどかしく思うのも仕方がなかった。
「俺もいろいろ考えなきゃならねぇんだけどさ。その……お前、嫁との間にできる子供って、卵と人間の姿とどっちだと思ってる?」
「わからない」
「って言われるような気はしてたんだよなー……」
白蜥の魔王たるシュクルも、金鷹の魔王たるキッカも、どちらも生まれは卵である。
となると、妻に産ませるのは卵ということになるのだが、二人はどちらもただの人間をつがいに選んでしまった。
人間は卵を産まない。シュクルはともかく、キッカはそれをよくわかっている。
「いきなり中身が出てくるなんて怖くねぇか、実際」
「わからない。私の子ならかわいい」
「生まれてもねぇくせにもう子煩悩かよ」
「私が、私の望むつがいと作った子が恐ろしいとでも」
「わかったわかった。つまりあれだろ、嫁との子ならみんなかわいいってやつ」
「最も綺麗でかわいらしいのはティアリーゼだ」
「うん、もういい」
はあ、とキッカは話にならない友人の前で溜息を吐いた。
新婚になって結構経つというのに、シュクルは相変わらず脳内が花畑らしい。
キッカももちろん、セランのことを想うと温かい気持ちになる。
だが、残念ながら鳥の雛に囲まれているつがいの姿はいまいち想像できないのだ。




