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「私、幸せだね」
「うん?」
「直接伝えられるよ、言いたいこと」
「……確かにな」
「手紙に書いて海に流したりしない。ちゃんとキッカに言うからね」
「俺もそうする。……そもそも、海に流したりしたら忘れそうだし」
二人は寄り添って、次第に見えなくなる瓶をいつまでも目で追っていた。
キッカの手がそっとセランの肩に回る。
「ナ・ズの砂漠かな」
「え? なにが?」
「なんかに例えるならなにに似てるかってやつ」
「……私、砂漠っぽい?」
いい意味なのか悪い意味なのか、いまいち判断がつかないものだった。
とはいえ、好きだからという理由で魚に似ていると言われるのも、それはそれで微妙である。
「感情表現の差が砂漠の気候みたいだと思ってさ」
「暑かったり寒かったり?」
「そうそう」
「それは……キッカにとっていいこと?」
「そうじゃなかったら、つがいにしてねぇもん」
「そっか」
二人の距離がまた近付く。
セランは顔を上げて、キッカの仮面のくちばしに口付けた。
「もうちょっと詩的な感じがよかったなー」
照れ隠しだと気付かないでほしい、と心の中で願う。
キッカは少しだけ笑った。
「あとあれだな。俺がずっと生きていたいと思った居場所ってのもある」
「あ、それは詩的な感じ」
思わず茶化してしまったが、キッカの言葉は嬉しかった。
セランの隣はキッカにとって行きたいと思える居心地のいい場所なのだ。気を抜けばすぐに飛んで行ってしまうことを考えると、最上級の扱いである。
キッカから視線を海に戻すと、もう手紙の入った瓶は見えなくなっていた。
陽も暮れる頃、セランとキッカはナ・ズへ戻るために海の上を飛んでいた。
夕陽が水平線の向こうへと消えていく。
それを追いかけているようで、少し楽しい。
「今日、付き合ってくれてありがとうね」
「いいよ。俺もやっとお前と一緒に来れて嬉しかった」
「また一緒に来ようね」
「マロウになんかおもしろそうなことがある日、聞いておく」
「うん」
次は二人でウァテルに行こう。
その夢を叶えても、まだ『いつか』の話をする。
二人だけの大切な夢には、しばらく終わりが見えなさそうだった。




