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番外編  作者: 晴日青
夢の続き/金鷹
19/28


「読めないね」

「あー、そっか。文字が違うのか」

「うん?」

「砂漠で使ってる文字と、他で使ってる文字って違うんだよ。今、思い出した」

「へえ……そうなんだ。喋る言葉はおんなじなのにね」

「俺たちと人間とで意思疎通できなくなるからじゃねぇの」

「じゃあ、最初は人間も亜人も仲良しだったのかな。そうじゃないと同じ言葉でここまで生きてこられないでしょ? 自分たちにしか通じない言語を作ってもおかしくないと思うけど」

「人間が思ってる以上に存在してるけどな、俺たちだけの言語」

「そうなの?」

「お前も聞いただろ。俺の歌」

「ああ、あれもそうなんだ」


 セランは知らずに鳥たちに伝わる恋の歌を歌った。

 キッカが返してくれた歌は、セラン以外の者には聞こえないと言う。

 鳴き声のような歌は歌詞のないものだと長年思い続けてきたが、キッカが言うにはあれがもう鳥の言葉なのだと言う。


「これ、なんて書いてあるか読める?」

「さあなー」

「……本当に読めない?」

「なんで疑うんだよ」

「読めないなら読めないって言いそうだから」


(キッカって、あんまり嘘つかないし)


 じ、とキッカを見つめる。


「お前、俺に詳しくなったよな」

「うん。すごい?」

「隠し事できなくなって、なんか変な気分」


 溜息を吐くと、キッカはセランの手からぼろぼろの手紙を取り上げた。


「読めるよ。でも、声に出したくねぇ内容」

「……どうして?」

「恥ずかしいから」


(恥ずかしいと思うような内容なの……?)


 セランのそんな疑問を感じ取ったのか、キッカが苦笑する。


「『あなたの笑顔は真珠のようです』……とかなんとか書いてある」

「真珠ってなに?」

「貝から出てくる丸いの。食えねぇ」

「……それに似てるって、あんまり嬉しくないね」

「キラキラして綺麗だし、普通は喜ぶもんなんじゃねぇの」


 セランはキラキラして丸いものを考えてみた。

 どうしても浮かぶ色が金色になってしまうのは、やはり隣にいる夫のせいなのだろう。


「もし、私をなにかに例えるならなににする?」

「えー……また答えにくい質問するなー……」

「帰るまでに考えておいてね」

「はいはい」


 結局、キッカは手紙の内容を読み上げてくれなかった。

 再び瓶の中に戻してしまうと、それを海に向かって投げてしまう。


「なんで捨てちゃうの?」

「俺たちが拾うもんじゃねぇと思ったからかな。あれ、ほんとは『真珠の笑顔をした奴』が拾うもんだろ」

「どこにいるんだろうね、そんな人」

「さぁなー。あんだけ古い手紙だし、もうとっくに生きてねぇかも」

「……じゃあ、言いたいことも伝えられずに死んじゃったかもしれないんだ」

「そうだな」


 波に揺られて遠ざかっていく瓶を見つめる。

 またどこかに流れ着いても、その先で拾うべき人物が手にするとは限らないのだ。

 それを思うと少し切なくなる。

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