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その後、あのときの思い出を語りながら街を歩き回った。
ウァテルの郷土料理なども楽しみ、充実した時間を過ごす。
「確かにここ、まったりした空気だよね。気温が高いって意味じゃ、ナ・ズも変わらないと思うんだけどなぁ。うーん、どうしてなんだろう」
「お前、頭使うの苦手なくせに、割とどうでもよさそうなことで悩むよな」
「キッカに言われたくないですー」
「はいはい」
小突くと、小突き返される。
いたずらな少年たちにも似たやり取りだったが、二人にとってはいつものことだった。
(私、幸せだなー)
ウァテルに来てからというもの、セランがずっとにこにこしていることにキッカも気付いている。
だからか、触れてこようとするのもいつもより多かった。
「うひゃ」
小さく声を上げたセランがキッカを見上げる。
ちょうど耳の近くにくちばしをこすり付けられて、うっかり変な声を出してしまった。
「びっくりするでしょ」
「んなこと言われてもなー」
キッカはセランの手を掴むと、そこにもくちばしを押し付けた。
この愛情表現も以前より回数が増えた。そのせいか、人間であるはずのセランもこの行為にどきどきするようになっている。
仮面を介しているために、直接触れ合うようなことにはならない。それなのに確かな愛情と温かさを感じられるような気がした。
「ね、あっち行こ」
「おー」
先ほどはセランがキッカを照れさせた。
しかし、今度はセランが照れる番である。
赤くなってしまった頬を隠すように、キッカの手を引いて歩き出した。
街を出てしばらく歩くと、広い砂浜がある。
カフとも見なかったその場所に、セランは大興奮だった。
「見て! なんか落ちてる!」
「貝だよ、貝。海の鳥がたまにつついてる」
「キッカは好き? いっぱい拾っておくね!」
「まだ好きって言ってねぇ」
肌に張り付くべたついた潮風も、砂漠とは違う砂も、落ちているキラキラしたものも、ただの流木でさえセランを楽しませてくれる。
それを、キッカは見守っていた。
そんな中、ふとセランが立ち止まる。
「どした?」
「なんか落ちてる」
「さっきからそれしか言ってねぇじゃん」
「ううん、そうじゃなくて……」
ととと、と走り出したセランが波打ち際からなにか拾い上げた。
キッカのもとに持ってきたそれは、ガラスの瓶に入った手紙。
「なんだそれ」
「わからないから持ってきたの」
「まぁ、そうか」
二人は四苦八苦しながら手紙を取り出した。
ぼろぼろになっていたが、一応、文字は読める状態にある。
だが、セランは首を傾げてしまった。




