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「じゃあ、ナ・ズで生きる私たちはちょうどいい気質なのかな? 昼は暑くて夜は寒いでしょ? ちょうど半分ずつだよ」
「どうなのかなー。あんまりそういうの、考えたことなかったから」
「こういうのって調べてみたらおもしろいかもね」
「調べるのがめんどくさそうだ」
「そういう時間を楽しむものなんじゃない?」
「俺、絶対途中で飽きる」
「私と一緒だったら?」
「ちょっとは付き合うかなー」
にへ、とセランはなんとも言えない顔になった。
キッカは欲しい言葉をちゃんと言ってくれる。本人が恥ずかしいと思わないことに限るが。
「私もキッカとだったらいつまででもできるよー」
「だから俺は途中で飽きるって」
二人は手を繋いだまま、のんびりのんびり港町を散策する。
そんな恋人たちの姿は少なくなかったが、人間と亜人という組み合わせはセランたちくらいしか見当たらない。
「あっ、あれ飲む!」
視線の先に懐かしいものを見つけ、セランはキッカの手を引いて走り出した。
そこにあったのは、以前来たときにも飲んだ果実水だった。
「これね、おいしいんだよ。砂漠でも作ってみようと思ったんだけど、なんかこう……絶妙に違う味になるの。なんでだろう?」
「水が違うからじゃねぇの」
「そういうこと? じゃあウァテルの水を使ったら、私の求めてるものが手に入る?」
「今度やってみればいいじゃん。水ぐらいなら運んできてやるし」
「本当? でも、重くない?」
「だってお前、欲しいんだろ?」
「うん」
「つまりそういうことだ」
「優しいねぇ」
「にやにやすんなよ」
この日に備えて、セランはせっせと城で小遣い稼ぎをしてきた。
掃除を手伝っては亜人たちに羽根を分けてもらい、通貨が使えなくても物を買えるように、と。
それなのに、袋から通貨代わりの羽根を出そうとすると、キッカに止められてしまう。
「どうしたの?」
「こういうときは男が出すもんだって言われた」
「誰に?」
「シュシュの嫁」
「ティアリーゼ? そんなこと言ってたの?」
「あいつ、割とあれこれ言ってくるぞ」
(……私の知らないところで会いに行ってる)
セランは少しむっとした。
だが、一般的に思われるような意味ではない。
「私もティアリーゼに会いたいのに、なんで一人で会いに行くの」
「違うって。シュシュんとこ遊びに行ったらいつもいるの。それだけ」
「私も今度連れてってね。約束だよ」
「えー」
無理に約束を取り付ける。
次の旅行先は決まったようなものだった。
そうしてキッカは男らしくセランに果実水を買ってくれる。
カフのときより、交渉が早かった。
「早かったね?」
「釣りいらねぇって言ってきたからかもなー」
「お釣り……」
「だって俺の羽根だもん、水どころか店買えちまうよ」
「……そんなに高いの?」
「尾羽だったら街ごと買えたりしてな」
「……これ?」
胸元に提げていたお守りを見せる。
キッカのものだと知らずに身に着けてきたそれは、今も大切なお守りとして手元にあった。
キッカ本人はなんとなくくすぐったい気持ちになるらしく、なるべく自分の見えないところに持っていてほしいと言う。
照れ臭いと思っているのを知っていて、セランはわざと反応を見るためにときどきその目の前に出した。
「それそれ。……しまっとけよ」
思った通りに照れてくれたのを見て、また嬉しい気持ちが込み上げる。
渡された果実水は、以前飲んだものよりずっと甘い気がした。




