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「……いい天気だなー」
隣でキッカがつぶやく。
確かに今日はいい天気だった。
だが、そもそも悪い天気というのがナ・ズではいい天気になる。
雨が降れば水が増える。本当のいい天気は雨の日のことを言うが、濡れるのが嫌いなキッカにとっては晴れの日がそうらしかった。
「……ねえ、どうして急に出掛けようと思ったの?」
「二人で話す時間が欲しかったからかな」
「……私とキッカで?」
「そうそう」
「……なにを話したかったの?」
忘れかけていた不安がよみがえる。
「やっぱり夫婦になるのは間違いだったー……とか、そういう?」
「なんでそうなるんだよ」
「じゃあ、一緒に過ごしてみたらなんか嫌いになっちゃった、とか」
「はぁ?」
「つがいになってみたら、思ってた感じと違ってて嫌になった?」
「だからなんでそうなるんだって」
はぐ、とキッカはパンを一口で食べ終える。
仮面で顔を隠しているのは変わらないが、器用にくちばしの部分をずらして口にものを運べるようにしているらしい。
そっと手拭きの布を渡しながら、セランはまだ半分近く残っているパンをもそもそ口に入れる。
「キッカの愛情表現って難しいから、いっぱい不安になっちゃうんだよ」
「だから二人きりになろうと思ったんだろ」
「……え?」
二人の間に空いていた距離は人間が一人入れるほどの空間。
それを、キッカの方から詰めてくる。
とん、と肩が当たって驚いたセランは、パンを取り落としそうになってしまった。
「キッカ?」
「お前、ものすごい前向きだと思ってたけど、意外と心配性だよな」
「……そうかなぁ」
「そうだよ。側で見てるんだからわかる」
なんだかいつもよりキッカの声が優しい気がした。
声の方を向くのが気恥ずかしくて、食事に集中している振りをする。
「俺はさ、まさか人間のつがいを持つことになると思ってなかったわけ」
「……うん」
「だから、その……なんだ。……どうしたらいいか、いまいちわかってねぇんだよな」
ふわりと砂の混ざった風が巻き上がる。
「俺にとっては普通でも、お前にとっては普通じゃねぇことの方が多いわけじゃん。逆もまあそうなんだけど」
「私にされて嫌だなって思ったこと、ある? ごめんね」
「謝るなよ。ねぇから」
「本当?」
「あ、キスはちょっとめんどくさい」
「…………」
「だってお前、容赦なく襲うじゃん、俺のこと」
正直なのはキッカのいいところだが、正直すぎるのもいただけない。
セランはしょんぼりしてしまう。
「じゃあ、あんまりしないようにする……」
「あー……。うーん……。そうじゃなくてさ」
かちりと音が聞こえた。
なにごとかと隣を見ると、普段は絶対に外さない仮面がキッカの手の中にある。
当然、素顔は日の下にさらされていた。
「俺がするから。……もう、襲ってくるなよ」
頬にキッカの手が触れる。
セランは完全に固まってしまっていた。
キッカがこんな風に迫ってくることなど、一度もなかったせいで――。




