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「どこ?」
「あっち」
「見えないよ」
「人間ってほんと、なんにも見えてねぇ」
「鷹と一緒にしないで」
どうやらキッカにはなにかが見えているらしい。おそらくは降り立つ場所だ。
どうせ頑張ったところで見えるはずもない。セランは諦めて、落ちないように背に捕まることだけを考えた。
しばらくしてキッカが降り立ったのは、小高い岩場がいくつも連なった場所だった。
その一番高い岩場に降り、セランが地に足を付けたのを確認して自分も姿を人のものに変える。
「いつも思うけど、そうやって人間と鳥の姿を使い分けるの、すごいよね」
「俺から言わせてもらえば、人間の姿しか取れねぇのは不便すぎて引く」
「なんで引くの」
キッカが笑う。
そして、開けた場所にセランを引っ張ると、腕だけを翼に変えてその場の砂を払った。
「ん。座れよ」
「ありがとう」
わざわざ服が汚れないようにしてくれたのか、と気付いて嬉しくなる。
やはり愛されているようにしか思えないが、相手はキッカだ。油断してはならない。
とはいえ、セランにもわかっている。
ちゃんとキッカは愛情を向けてくれている。でなければ二人で出掛けようと誘ったりしない。
ただ、残念なことにあまり愛情表現をしてくれないだけだ。することと言えばくちばしをこすりつけるだけ。
人間の姿を取っている際に仮面を付けているが、本当に夜眠るときにでもならないと外してくれない。
そして、キスをねだるのも奪いにいくのも大抵セランからだった。
「お水、飲む?」
「いんや。飯食う」
「ん、ちょっと待ってね」
セランはすぐに荷物から弁当を取り出した。
中にあるのは、ウァテルで見かけたパンによく似せたもの。
ナ・ズで広く食べられている平たいパンに、焼いた肉と野菜を挟んだものだった。それだけでは物足りない気がして、最近はどの香辛料が合うか試行錯誤しながら混ぜてみている。
「魚だったらよかったのにね」
「ウァテルまで行くか?」
「いいよ、大変だもん」
「そっちはまた今度な」
「うん」
(連れて行ってくれるんだ)
憧れの水の大陸に初めて行ったとき、そこにキッカはいなかった。
それを寂しく思ったのが懐かしい。
「いただきまーす」
「おー」
二人でわけ合ったパンを口に運ぶ。
今日の香辛料は香りより刺激を重視してみたが、なかなか悪くなかった。
「なんかぴりぴりする」
「どう? おいしい? どの香辛料が合うかいろいろ試してみてるの」
「変なことするよな。人間がそうなのか、お前がそうなのかわかんねぇけど」
「それで、おいしいのかどうか聞いてるんだけど……」
「まあ、まずくはねぇと思う」
「……微妙な反応だね」
「俺、生の方がいいし」
「そういうとこ、鳥っぽい」
「鳥だからな」
肉食の獣であるキッカは自分で狩りをするのが好きらしかった。
当然、鷹の姿で行われることだが、セランは最初人間の姿で生肉をむさぼるところを想像した。背中がうすら寒くなったのは内緒の話である。




