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「セラン」
呼ばれて、セランはキッカを振り返った。
「なに?」
「どっか行くか」
「えっ、なんで? 行く!」
思ったままをぽんぽん言うセランを見て、キッカは笑ったようだった。
しかし、セランは少し疑問を覚えてしまう。
(なにか大事な話でもするつもり?)
今の今まで、セランもキッカも自分の好きなように過ごしていた。
キッカは抜け落ちた羽根を集めては綺麗に並べ――それになんの意味があるか、残念ながら人間のセランにはわからない――セランはセランでもっとナ・ズのことに詳しくなっておこうと、城内の鳥たちに聞いて回った内容を紙にまとめていた。
好き勝手な時間を過ごしていても、二人は夫婦である。
セランも自由な気質が強く束縛を好まない性格だったが、キッカは鳥の亜人らしくそれ以上に自由気ままな過ごし方を望む。だから二人は同じ部屋にいても同じことをしない。思い立ったように他愛のない会話をするだけ。それも長々と続かない。
こんな新婚生活を少し不安に思っていたのは確かだった。
セランの友人であるティアリーゼは、夫婦にもそれぞれの形があるのだと諭してくれた。だが、やはりどうもあと一歩必要な気がしてならない。
というより、結ばれる前はもっと会話が多かったのに、それがなくなったというのが気になっていた。
(ああ、もう。悩まなくていいでしょってわかったのに)
以前にもセランはこうして悩んだ。
セランを置いて各地に飛び回るキッカは本当に自分を好きなのだろうか、と。
それが誤解だと知ったのは、キッカのその行動のきっかけがセランだとわかったからだった。
キッカはセランの話を意外によく覚えている。忘れっぽいと言う割には細かいことまで。だから、ずっと前に言ったなにげない言葉を叶えようとしてくれていたのだが。
あのときはセランのためだった。今、こうして微妙な距離感でいるのは誰のためなのだろう。
「水忘れるなよ。それから、なんか食うもん持ってけ」
「食べるもの? そんなに遠くまで行くの?」
「かもなー」
「かもなって……。大丈夫?」
「今日中に帰ってこられる場所にする」
(ってことは、どこに行くかまだ決まってない?)
ゆるりと不安の影が大きくなる。
風の向くまま、気の向くまま。そんなキッカの考えを読むのは難しい。
顔を仮面で隠しているからなおさらだった。
「とりあえず……準備するね。キッカは? なに食べたい?」
「用意できそうなもんならなんでもいいや」
「もー」
なんでもいいというのが一番困る。
言ったところでキッカが変わらないのは明白だった。
セランはいろんな思いで頭を悩ませながら、キッカの言う通りに水と弁当とを用意した。




