第2話 俺と猫と酒と・・・
お酒好きですか?
いきなりだが、あなたは酒を飲む小さな猫を見たことがあるだろうか?
普通に考えるに酒を飲むのはその酒を生み出した人間という種だけに限られるだろうう。
しかし、世界は人が思っている以上に実は広い。
俺が知っている限りではワインを飲めるチンパンジーがおり、
ブランデーを飲むダルメシアンもいる。
小学生頃、近所のある中年夫婦の一軒では柴犬が一匹おり昼から日本酒をそこのオヤジと飲んでいるのを見かけたこともある。
正確に言うと・・・
オヤジが餌皿に日本酒を入れてそれを飲んでいたから、飲まされていたというのが正しいのだろうが・・・。
まあ、そういうことから人の作った酒は別に人以外の動物でも飲めるものではあると思う。
だが、アルコールというものはその摂取量が増えるとそれだけ危険であることを酒を飲む方なら誰でも知っていることだろう。
過剰な摂取を行うと死にいたることさえあるということを・・・。
さて、ここで最初の質問に戻ろう。
あなたは酒を飲む小さな猫を見たことがあるだろうか?
猫の生態研究者がちょいと気まぐれで小さな猫に酒を飲ますという場合や、
家にて優雅にお酒を飲んでおりたまたま席をはずした間に猫がその酒を飲んでしまったなどなど・・・。
そのような場合を除いて、普通の一般人ならまずそのような場面を見ることはないだろう。
もちろん一般人の一人を自覚する俺も・・・
『コクゴプゴク・・・』
「・・ねねがぁ・・ねっががが・・・」
・・・もちろんなかった。
しかし、今となっては過去形である。
短い足のテーブルの上で、小さな皿に並々そそがれたチューハイを一気に半分ほど飲んだそいつは満足げに人間のオヤジのような声をあげた。
『ぷはぁ〜!うめぇ〜!』
「・・ねっががが喋っ、猫がが喋っ喋って・・・」
ついでにこのチューハイは俺が買ってきた物の一つで、そのチューハイ缶を目の前の小さな黒猫がまるでなにかのCG動画のように器用に前足で缶を空けてはさんで自分で皿に注いだものだ。
俺はそれを頭の中を大混乱状態にしながらもしっかりと見ていた。
――猫が!猫ががぁ・・・!!
怖っ!!不気味っ!!恐ろしい!!って何なんだこいつはぁああああ!!!?
『おい、兄ちゃん』
頭の中ショート寸前、目の前ブラックアウト寸前。
そんな中突然、聞こえた声。
もちろんそいつだ。
その体とは正反対の白い尻尾をプラプラとテーブルの端で垂らしながら、そいつは話しかけてきた。
気のせいだろうか・・・少し酔ったような声に聞こえる。
「・・・・はっ、はぃ」
『名前・・・。名前なんってんだ?』
黄色いガラス玉みたいな目でにこちらを見上げてきた。
・・・か、観察されてる
可愛い子猫のようになだけにオヤジ声でとても不気味だ。
例えると、フランス人形が子供の声を出したようなホラー的なものと言えばわかるかもしれない。
・・・子猫なのに
「・・え、ぇえっと!ええっと・・・ゆっ!・・・ぅ優!」
『ユウというのか・・・。女みたいな名前だな』
ニヤリ
――怖ぇえええええええ!!
笑った・・・こいつ笑いやがった!!
俺は思わず顔を引きった笑い顔になる。
猫の癖して、そいつは人間のように口を斜め上に歪ませたのだ。
この瞬間が、俺がすごしてきた中でランキング一位の恐怖体験になった瞬間だと確信した。
・・・頭が真っ白になる
ああ、やばい意識が落ちそう
『俺はな、白尾のジンっていうんだ。その筋じゃ結構有名なんだぜ?』
「・・・・・・はっ、はあ・・」
『はあ・・ってなお前?』
ガチガチブルブルの俺がなんとかして声を出し返答すると、
ジンと名乗ったその小さな黒猫はあきれたようにその体と反する色の尻尾を振るとまたグビッという擬似音がするかのように酒に口をつけた。
・・・まるで人間のオヤジのように感じてならない。
と、ここで俺は突然疑問に思った。
その筋とはどの筋なんだろうか?・・・と。
人の好奇心とは恐怖も凌駕することもあるらしい。
とりあえず人の世界のものではないのは確実だろうが、化け猫の世界があるのだろうか?
悪魔?
それともやっぱり・・・妖怪?
いや、幽霊の筋ということなんだろうか?
とりあえず言えることは・・・、
とんでもないものを拾ってきてしまった・・・ということなんだろう。
――・・・俺は呪われるのだろうか・・・?
それとも、これから食われるのだろぅ・・・!?
あぁあああ!!・・・・どうすれば!!!?
『まあ、しかしそんな俺でもあれはやばかった・・・。夜討ちだぞ?夜討ち?しかも、相手は20以上もいたんだ。それらに囲まれたともなれば、いくら俺でもどうしようもねえぜ』
「たたっ・・、たっ大変だったたんです!・・ね」
俺は今、大変だ!
『ああ・・。もうあの時は終わったと思ったぜ・・・。奇跡的にも逃げ延びることはできたんだが、その町から出ちまって食うものもなく彷徨い歩いて餓死して死ぬところだった。
・・・だがよ、おめぇが拾ってくれたおかげで俺は今生き残びてる!助けてくれてあんがとよ!』
そう言うとそいつはまたニヤリと人間のように口を歪ませた。
――ってちょっとマテ!・・生き残びてる?ということはこいつは幽霊の類じゃないということか?
・・と、ということはいうことは・・・化け猫か!?化け猫なのか!!?
俺は・・・俺は・・・つまり食われるのかっ!!!?
そんな考えが頭の中を暴れまわるように駆け巡っていき、体がさらにブルブルガクガクと震えた。
目の前の生き物は小さな猫なのに、とてつもなく不気味で大きな存在見えてしまう。
・・・子猫なのに
――逃げないと・・・!!ここから逃げないと・・く、食われる!!!
「あっ、あっあああああ、・・あの!!」
『ん?なんだ、ユウ?』
俺は思わず自分から声をかけていた。
だが、もちろん逃げるため何か理由をつけてこの部屋から脱出を図るためにだ。
ナイスアイデア、俺!
「おおおおっお、俺ぇ!でぇ、・・ででで、出かかけないといけないんんで!ししし、失礼しま――『・・・まあ、待て』・・・す・・ぅ・・・・・・え?」
ポフッ
『・・・』
「・・・」
――つ、つかまったぁああああああ!!!!?
気づいた時には、小さな右の前足を俺の膝の上にちょこんと乗せこの不気味な子猫は俺に静止をかけていた。
動けない!
怖くて、動けない!
情けないとどこかで思っていても、恐怖が完全に自分の体を支配してしまい動こうともできない!!
・・・子猫なのに
『お前に・・、命の恩人に礼をしないといかん』
「―――・・・っ!!?」
――こっ、この流れは・・・!!!?
これからこいつに食われるのだ・・・
とそのとき俺は思った。
そして・・・・
子猫は、ジンは・・・不気味にニタリと笑うとその小さな口をあけた。