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ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?  作者: シュリ
第三章 自分って偉いんですか?
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第五十八話

年内最後の更新です(当たり前)

 



「おうおうコイツらが魔人共のお偉いさんかぁ? なんだ只の小娘じゃねぇか。こんなもんなら俺一人で十分だったな」


「バカが。貴様だけにいい思いはさせんぞ」


「ヒュウ! 面白そうだねぇ〜」


 数にして十はいようか。嫌らしい笑みを浮かべた男達が、斬鬼達の事を()め付けている。この不愉快さと気持ちの悪さ、そして身の程知らずは間違いなくニンゲンだと斬鬼は決め付けた。


「歓迎しに来た……という訳ではなさそうだな。何だ貴様らは?」


「ああ? そんなんお前らを討伐するために決まってんだろ。この俺様、アングルボダ・アルバート様がな!」


「阿呆が。戦功を焦って自滅するつもりか? いくら倒しても報酬は山分けだぞ」


「はぁ? んだよつまんねぇの」


 斬鬼達を前にしてこの余裕。余程の強者なのか、はたまた只の身の程知らずか。少なくとも、それは斬鬼の機嫌を逆撫でするには十分過ぎる対応だった。


「……下らん掛け合いは十分か。生憎ちっとも笑えんが。より一層その首を落としたくなったよ」


「ああ? こちとら国に選ばれた勇者様だぜ? そんくらいの余裕はあって当然だろ?」


「ふぅ……相変わらず勇者の類は話すだけ無駄か。情報と共にその頭蓋、さっさと引き摺り出してしまうとしようか」


 まさに一触即発の空気。お互いに武器を構え、後は何かのきっかけがあれば直ぐにでも戦端が開かれようという状況で、しかしここでも調子っ外れな少女の声が響いた。


「あ、待って待って斬鬼ちゃん! ちょっとやりたいことがあるからまだ殺さないで置いてあげて!」


「言われずとも、情報を吐くまでは八分殺し程度で済ますつもりでしたが」


「もー、それじゃ意味ないんだって! 出来るだけ健康なままじゃないとデータが取れないの!」


「……要望は分かりました。それでは──」


 言葉を遮る様に飛来する巨大な鉄球。その巨大な一撃を、斬鬼は刀の一振りで弾き返した。


「私が殺し切る前にお願いします」


「うえーん! やっぱ斬鬼ちゃん過激ぃー!」


 生憎と、斬鬼は非常に短気である。さっさと疎ましい人間どもを片付けるべく、鯉口を鳴らして走り出す。


 こうなっては彼女が獲物を狩り尽くす前にやるべきことを済ませなければならない。ノーチラスは慌てて銀色のブリーフケースを虚空から取り出した。


「はいこれ、遅くなったけどボクからアンリちゃんへのプレゼント! 折角ヴィルと仲良くなったんだからこれくらいはね?」


「え、あ、ありがとう……?」


 プレゼントと称された謎のケース。正直天魔将軍からのプレゼントなど不安しか感じないが……。


(な、何なのこの期待の眼差しは……!)


 例えるなら、好きな絵本を前にした子供。こうも期待を込めたキラキラした目で見つめられるとさしものアンリも応えないわけにはいかない。


 ええいままよ、と思い切って留め具を外す。ずっしりとした重量感を感じる蓋を開くと──


「……何これ?」


 やけにゴツゴツとした、メカメカしいデザインの腕輪。宝石のようなものが散りばめられているが、全体的にくすんだ色の為価値は付かなそうだった。


 簡単に呪いが掛かっていないか魔法で確認してから、試しに手に取ってみる。想像よりも軽い。少なくとも、普段から着ける分には困らなそうだ。


 しかし、本当にただのブレスレットなのだろうか? 仮にも天魔将軍とあろうものが、ただアクセサリーを贈るだけなどという事をするのだろうか?


「ほら、巻いて巻いて! 早くしないと斬鬼ちゃんが終わらせちゃうから!」


(不穏! もう既に不穏! 巻いたら何かあるって事が確実じゃないのよ!)


 物凄く嫌な予感がするアンリだったが、ここまで圧が強いと無下に断ることも出来ない。流石に死ぬことは無いだろうと無理やり自身を納得させ、ブレスレットを右腕に巻いた。


 ガチリ、と硬質な音を立てて留め具が締まる。その瞬間、彼女の全身を緑の光が舐めるように走り、くすんでいた宝石に光が灯った。


「ひゃっ!? な、何!?」


「よーし、準備完了! このまま行っちゃおー!」


「ちょっと私まだ何も分からないんですけどー!?」


 悲痛な叫びも何のその。ノーチラスはブレスレットを掴み上げ、緑に光輝く宝石を強く押し込む。


『シークエンス起動。戦闘システムを構築。《ノーヴァ》を起動中です』


「は!? ちょっと本気で──」


 慌てて抗議の声を上げるがもう遅い。ブレスレットは唸りを強く上げながら起動を始める。


 肩。腕。足。胸。その全てを灰色の鎧が覆う。いや、鎧と呼ぶにはいささかスタイリッシュが過ぎるだろうか。(いかめ)しいといった印象は全く無く、寧ろ関節部の蛇腹状の鎧を見ると動きやすさすら感じる。


 最後に兜が頭を覆い、真っ黒だった目元のスリットが赤く発光。全ての動作が完了するまで、およそ一秒程も掛からなかった。


「よーし大成功! ヴィル用に開発したものの、出力が低過ぎてびっくりするほど役に立たなかった試作品の鎧! その名も『ノヴァちゃんMark-II』!」


『Urrrrruuuuuuu!!?』


 なにこれぇー!!? と叫ぶアンリの声は、全て狂戦士の咆哮となって外界へと放出される。一切の特殊効果が含まれない只の叫び声に、自称勇者達はビクリと肩を震わせた。


『Grurururururururu!?』


「お礼なんて全然大丈夫だよー! 寧ろちょーっと変身バンク短かったなーとか、エフェクト少なかったかなーって反省してるくらいなんだ。でも、うんうん。これで満足してくれる様なら良かった良かった! ノヴァちゃんMark-IIも浮かばれるってものだよ」


 不満の言葉もなんのその。意味を成さない言語ではまともに意思を伝えることもできない。この状態ではどうしようもないと、アンリはがっくり肩を落とした。


 だが、そんな彼女の内情など男達は知る由も無い。急激に変化したアンリを見て、彼らは躊躇なく攻撃を仕掛ける。


 飛来する風の鎌。生身で受ければ彼女の柔肌はズタズタに切り裂かれていたことだろう。だが、彼女の纏う鎧がそれをさせない。


 襲いくる魔術の軌道が赤い線となってアンリの視界に警告を出す。咄嗟に腕を突き出すと、魔術は灰の鎧に吸収されていった。


「な、なあっ!?」


「わっはっはー! これぞMark-Iには無かった新機能、『魔法吸い込むナウ』! 一定以下の魔術は無効化して、反対に活動の為のエネルギーにするという優れものなのだ! これにノヴァちゃんの戦闘演算機能が加われば、最早敵はなーし! ……まあ、計算上だけど」


 目元のスリットが一際強く輝く。そのあまりに禍々しい立ち姿に、男達は恐怖を抑えきれずにはいられなかった。


 蹂躙が幕を開ける。

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