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ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?  作者: シュリ
第三章 自分って偉いんですか?
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第五十五話

 



 ラクレントへ向かう旅路は、人間にとっては著しく険しい道のりだ。


 主たる守護龍が座す『禁域』。天魔将軍達が目を光らせる領土。そして魔人が住む故の過酷な環境。軍隊は元より、経験を積んだ旅人や冒険者でさえも、誰一人として人間が立ち入れたことはない。アンリ達のパーティーが国境の端とはいえ郊外の街に侵入できたのも、奇跡のような出来事だったのである。


 最も、その偉業も成果が出なければ只の愚行でしか無いが。


「……で、そんな所に踏み込もうってのに、こんな軽装で大丈夫なのかしら?」


 アンリは馬に跨りながら、同じ様に隣を進む斬鬼に疑問を呈する。人間である彼女からすれば、ちょっとやそっとの準備では不足だと感じるのだろう。現に彼女が実際に領内へと侵入した時は、魔法による移動や夜間の強行軍を繰り返しても突破に一週間はかかっていた。


 翻って、今現在の彼女らの装備はどうだろうか。簡単な野営道具や着替えなどが入った大きめのザック一つと、回復ポーション等のビンが入ったカバンが一つ。それをお互いの跨る馬に括り付けており、彼女達は何一つとして手に荷物を持っていない。


 楽なのは良いことだが、果たしてこれで魔王城の元まで辿り着けるのか。斬鬼の方が詳しいとはいえ、アンリは不安を覚えずにはいられなかった。


「フン、脆弱なニンゲンには厳しいのかも知れんが、魔人にとってはそう難しい道のりではない。その気になれば魔人の軍勢は、ラクレントから最短のニンゲンの街まで2日で辿り着く事ができるからな」


 この都市からであればどれだけ掛かっても一週間よ、と誇らしげに語る斬鬼。だが、それを聞いたアンリにはどうしても疑問が残る。


「その割には魔王軍が本気で動く様を見た事がないけど。その気になれば電撃戦をいつでも仕掛けられるでしょうに」


「……順調であれば、の話だがな」


「……ああ、そういう」


 斬鬼が苦い顔をするのも無理はない。なにせ、魔人は余りにも団結力が薄過ぎるのである。その凄さたるや、人間の中で『魔人の如き仲の悪さ』という例えが作られるほどと言えば伝わるだろうか。


 魔人の軍は、大抵軍としての体裁を為さないのが大きな欠点だ。人間であれば斥候や兵卒、砲兵や指揮官など様々な役職に分かれ各々の領分を全うするが、魔人はそんな小難しいことを考えない。攻撃か、反撃か。彼らの頭にあるのはこの二択である。


 仲間? いいや、敵を攻撃する都合のいい奴らだ。


 救援? 無駄な手間をかけてどうする。弱者を救う暇があれば一人でも多く敵を殺せ。


 撤退? 魔人の誇りは戦いだ。その中で死ぬのであれば後悔などない。


 なまじ戦闘に向いた種族ばかりが集まってしまう為、こんな有様である。これでは軍隊というより、ちょっと強いチンピラの集まりとでも言った方がいいだろう。地力はあるのに、人間達にいつまで経っても勝てない理由はここにあるのかもしれない。


「なんにしても貴様の不安は無用だ。少なくとも私がいれば、魔王軍のセキュリティに引っかかる事も無い」


「セキュリティって?」


「ニンゲンであるお前に言う訳が無いだろう。ヴィルヘルム様に目を掛けられているとはいえ、多少は身の程を知れ」


 斬鬼はアンリに向かって冷たく言い放つ。


「そもそも、私は未だ貴様を許した訳では無い。ただヴィルヘルム様が処分を言い渡されないから、そして今回も貴様と行けと仰られたが故に同行を許しているに過ぎん」


「……分かってるわよ。アンタが私を嫌ってるってことくらい」


「なら、精々その自覚を持って行動する事だな。あらかじめ言っておくが、ラクレントでは無駄な行動を控えろ。あまり勝手な動きをされては困るからな」


「あらそう? 嫌ってるなら出来るだけ遠くにでも置いといた方がいいんじゃない?」


 軽くからかうように言うアンリだったが、斬鬼は相変わらず苦虫を同時に十匹は噛み潰したような渋い顔だ。


「……そうできるのなら私もそうしたい所だがな。生憎と出来ない理由がある」


「またヴィルヘルムの命令? それとも私が諜報活動でもするって? 一人じゃ貴方にも勝てない私が?」


「様を付けろと言っているだろう……生憎だが、そのどれも違う。もっとシンプルな話、貴様が一人で出歩いていると死にかねないからだ」


「……何? それは私が弱いからっていう嫌味? 確かに自虐はしたけど、それでもそこら辺の魔人に負ける程柔な鍛え方はしていないつもりよ」


「そこらの魔人など私が勘定に入れるわけ無いだろうがバカか。私が危惧しているのは魔王直属の親衛隊の方よ」


 斬鬼はこめかみを揉みほぐしながら溜息をつく。


「奴らは普段メイドの格好をして魔王城にて雑事をこなしている訳だが、その能力は恐ろしく高い。複数人相手であれば、この私が苦戦する位にはな」


「自意識が高いわね」


「事実だからな……話を戻すぞ。だが、真に厄介なのは奴らの魔王に対する忠誠だ。魔王城下の町に人間が入ったともなれば、ほぼ確実に排除しようと動き出すだろうな。複数人に奇襲されれば、貴様程度数分も掛からんだろう」


「(負けず劣らず貴方の忠誠心もアレだと思うけどね……)」


「何か言ったか?」


「なんでも無いわよ」


 どうやら斬鬼の側に自覚は無かったらしい。自分の事を省みるのは中々難しい事である。


「チッ、いらん説明で時間を無駄にした……日暮れまでにはアガレスタの街に到着したい。急ぐぞ」


 斬鬼は背から蝙蝠型の翼を広げると、勢い良く羽ばたかせる。人馬は一体となって風に乗り、最高速を超えた勢いで駆け出した。


「ちょ、言ったそばから置いて行かないでよ! ああもう、本当にムカつくわね!」


 アンリも負けじと、多重魔法陣を展開。馬に強化魔法、背後に風魔法を発動し、一気に最高速へと達する。


 この日、平原には明らかに自然のものでは無い突風が吹き荒れたという。

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