9話『我が妹との邂逅』
「ただいま~」
「お邪魔する!」
雪が荷物を置いてくるまで待ってから、俺たちは家に入った。家に入ってきた雪に対して妹は驚愕の表情を見せていた。いや、体は驚きで硬直しているが、顔は俺と雪を交互に見ていて忙しい。
しかし、雪がこうして硬直しているのには幾つか理由があった。まず、最もな理由は妹がシャワーを浴びた直後だということだった。今日は春にしては暑く、俺も汗をかいてしまうほどだ。中学も始業式だけならば早く終わるし、家に早く帰ってきたのなら汗を流すためにシャワーを浴びるというのは不自然ではなかった。俺だけなら妹も何も思わないだろうが、妹にとって知らない人が居るともなれば驚くのも無理はない。むしろ叫んでもいいはずなのに、妹である奏恵はタオルが頭から落ちないように抑えつつも止まっている。
「奏恵! と、とりあえず下着姿だとアレだろ⁉」
止まっている奏恵へと声を掛けた。声を掛けられてようやく奏恵は我に返ったようで、慌てた様子で顔を真っ赤にして部屋へと走っていった。
「ほほぅ。あれがマスターの妹君か。白の下着、それに可愛い……なんていうか愛でたい……」
「人の妹を変な目で見るんじゃない」
いつも通り雪の頭へとチョップをくらわし、ダメージを与える。雪はチョップされたことに不満そうな顔をしつつ、家の中を探索しようとしていた。というよりも、雪は俺の部屋に狙いを定めて走ろうとした。
「おい。お前はリビングに居るんだぞ? 何故に俺の部屋に行こうとする?」
仮に部屋に入れるとしても、今日はまだ困る。部屋自体は綺麗にしているし大丈夫だが、ベランダにはまだ処分出来てない物があるから不味いのだ。俺の黒歴史といえる物があるのだから。
「マスターの部屋にはきっと魔法陣があるに違いない。一目だけでも見なければ!」
「ダメだ。絶対にダメだぞ?」
俺の言葉に一切耳を貸さずに、雪は俺の拘束を振り切って部屋に入ってしまった。
「なんだ……何もないではないか。いや、マスターの部屋なのに何もないはずがない! きっと何処かに――はっ! 隠すのならきっと本棚にあるはず!」
まずい。非常にまずい。どうしてこういう時に限って雪の予想は当たってしまうのだろうか。本棚には雪の喜びそうな俺の中二病設定ノートがあらゆる本に紛れて存在する。奏恵にバレるにならまだしも、現役中二病のこいつにだけはバレたくない。あんな緻密に練られているノートを見られれば弱みにもなるし、雪なら本当にマスターとして崇めてきそうな気がする。これだけは意地でも止めなければ――。
「――お兄ちゃーん。ちょっと話があるんだけど、来てもらっていいー?」
奇跡的にも奏恵が俺を呼んでくれたことによって雪の漁る腕を止めた。これは好機だ。
「お、おう! ついでだからさっき奏恵も見た女の人を紹介するわ! ……という訳で雪。リビングに戻るぞ」
「む~。仕方ない。諦めるとしよう」
妹に呼ばれ、俺は雪を連れてリビングへと向かった。雪は少し名残惜しそうにしているが、どうやら妹に会うのも楽しみなようで顔は笑顔のままだったのは幸いだ。
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