7話 『我が力を見よ!』
雪と共にレストランへと入ったのは良いのだが、雪のはしゃぎっぷりや無知が明らかとなり、俺は疲れ、雪はレストランを出た今もめちゃくちゃ元気となっていた。
「あのような店がレストランなのだな。少々生贄は高かったが、美味であったぞ!」
「店の前で大きな声を出すな。迷惑になるだろ」
初めてのレストランで驚きを隠せなかったのか、お店の人を呼ぶボタンを「終末を呼ぶボタン」と言ったり、今もこうして会計した後にお店の前で喜んでいる。
雪の言う通り、少し高校生には高い金額だったし、奢るに奢れなくて結局雪にもお金を出してもらったのは自分としては恥ずかしいという思いしかない。
「さてと、そろそろ家に帰るか。雪は他にどこか寄りたいところあるか?」
「うむ。正直なところマスターとならどこでも良いと言いたいところだが、出来たら、その、夜の魔力補給の為の食材調達を手伝ってくれたらな……なんて……」
「夜ごはんの買い物か。ってお前、自炊してるのか。すげえな」
俺が素直に尊敬していると、雪は嬉しくなったのか突然ドヤ顔になっていた。
「ふふん。我は力を持つものなのだよ。魔力補給くらいは自分で出来なければ生きていけない」
「ほんとお前は中二病じゃなければ完璧なのにな」
容姿もそこらへんの女の子より断然かわいいし、スタイルも抜群。まぁ、胸はあまりないが、身長的にもぴったりだ。唯一中二病という点を除けばモテた筈だろう。ただその場合は、もちろんのことながら俺と仲良くなんてなっていないだろうが。
「中二病じゃない私? なにを言っているのかよく分からない。私の力は本物だし、聖竜は存在する。マスターは疑ってるのか?」
「へぇ、それじゃ、買い物に行く前に見せてもらおうかな。あ、それとマスターはまじで外で使わないでくれ。頼む」
「マスターはマスター。それと、力はもう少し人がいないところがいい。他の人に影響を及ばしてしまうし……」
「ふーん。人が居ないところねぇ……」
俺は少しニヤつきながら、人のいない所を探す雪の後に付いていく。
「こ、ここなら我の力も見せることが出来る」
俺たちがたどり着いたのはレストランから少し離れた更地。確かに人はいないし、中二病を見られることもない。誰もいなければもちろん誰にも迷惑を掛けることはない。といっても、どうせ雪には力などないから雪が恥ずかしい思いをするだけだが。
「マスター。心して見るがいい。「我が腕に宿りし力の身元、聖竜よ。汝の力を我がマスターへと見せるとき来たれり、故に汝を今ここに解き放つ。現れよ! 聖竜降臨!」」
迫力はあり、昔の俺のように力を解き放つ詠唱もある。だが、一つ問題があった。何も起きないことはもちろんだが、なんていうか昔の俺を見ているかのようで恥ずかしかった。
「お前、それはぬいぐるみだよな」
「違う、これこそがわが能力の具現化。聖竜!」
雪が詠唱とともに鞄から取り出したのは小さなぬいぐるみ。それも、竜とか言っていたくせにひよこのぬいぐるみだ。
「マスター。先に言っておくが、我が聖竜はあらゆる姿になることができる。今はこのように可愛らしい姿だが、場合によっては驚異的な姿になるだろう」
「お前な、どうせ言われる気がしたから設定を付けたしたとかだろ!」
「せ、設定とか言うな!」
それに、どうせ他の姿とか言ってるけど他のぬいぐるみを出すだけだろ。と言おうかと思ったが、これ以上設定を付け足されてめんどくさくなること間違いなしなのでやめておくことにした。
「あー、その詠唱もあんま人の居るところで言うなよ? 変な目で見られるからな。それと、学校にお前は何個ぬいぐるみを持ってきているんだよ」
俺に何を言われても対抗できるようにか、雪は鞄から幾つものぬいぐるみを取り出そうとしている。だが、どれも女の子らしく可愛いぬいぐるみだった。
「やはり力が漏れていたか。我が子供たちが封印から解かれようともがいている」
自分にとって都合の悪いことを完全に無視して、ぬいぐるみを鞄へと戻している。
「ふふふ。やはりもう少し力の制御が必要だな」
「いいから買い物に行くぞ」
今の雪に力のことでなにか言っても全く意味を為さないだろう。だからこそ、雪の力が無いことは確認できたし、雪の要望通り買い物に行くことにした。というよりも、雪を置いて俺は歩き出すことにした。