6話 『放課後のデート?(仮)』
先ほどまでスキップしていた雪はその場に立ち止まり、何故か空を指差しながら俺の方へと振り向いた。
「マスター、見てくれ! あの雲、もしかして神からの伝言じゃないか!?」
「はぁ……」
今の俺は元中二病というだけあって突然の変な行動でもあまり気にしないが、中二病な雪を見ても皆が話しかけたりしているのは、学校の人たちもそういうのを気にしないからだろう。珍しい事もあるものだ。
しかし、幾ら学校の人たちが俺たちが付き合っていると思っていても、俺はまだ認めたくはない。確かに雪は可愛いが、俺自身まだ雪のことをあまり知らないし、そもそも勝手にマスター扱いされているだけだ。
雪の中二病が治ってしまえばきっと今よりも関係の薄いただの友達程度になるだけだ。
「マスター、早く魔力補充をしに行こう! これ以上魔力がなくなると封印が解けてしまう!」
「はいはい。分かったからその腕を抑えるのをやめろ」
だけど、こんな風に自分と仲良くしてくれる女の子と一緒に帰れたり、ご飯に行けるのは悪くない気がする。
とりあえず雪が魔力魔力うるさいので、偶然近くにあったファミリー向けのレストランへと俺は入ろうと思った。
「雪、ここでいいか?」
女の子と出かけたことも妹以外にはない俺は、こういう時用に日々妄想していたことを思い出して、念のため雪へと訊ねた。正直、ここが嫌と言われても違う所に行けばいいだけの話なのだ。
「ここは、れすとらん? なんだここは。私の知らない何処かの秘密結社か?」
雪のこの反応には正直驚きを隠せないが、反応を見る限りではわざとには見えない。高校生になってファミレスを知らないというのはきっと何かの事情があるのだろうし、無闇に聞くのは野暮ってやつだろう。
「ま、とりあえず入ろうぜ」
「こ、ここに入るのか⁉」
「お腹空いたしな。それに初めてならいい機会だろ? 今日は奢ってやるから色々食べてみろよ」
そもそも、ファミレスを知らないということは、雪は俺とどこでご飯を食べようと思っていたのだろう。さすがに会ったばかりの男を家に入れようとは思わない―――
「―――よし! マスターがそこまで言うのなら行こうではないか! ……しかし、本当にここで魔力の補充は出来るのか?」
「ここはお金を払って料理を提供してくれるところなんだよ。本当に何も知らないのか?」
なんだか子供に教えているような気持ちになったが、完全に一人で、更には中二病ともなればファミレスに入ることはない。最も、もしも俺がこういう立場だったらの話だが……。
「ふむ……生贄を払って魔力を補充するということか。話には聞いていたが、まさか料理を提供してくれる店があったとは―――」
雪がまるで考えてる人のように顎に手を置きながら考えていると、突然ぐぅ~、という音が聞こえた。お腹の音がなってしまった後は、雪は女の子らしく赤面してお腹を抑えている。
「ま、マスター! 聖竜は至急魔力を欲している! 早く行こう!」
「はいはい。分かったよ」
顔を赤くしながら必死な表情をしている雪を見てニヤニヤしていると、雪は俺を置いて急いで店へと入ってしまった。当然、店に入ってからも雪の前でニヤニヤしていたら怒られたのは内緒だ。