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54話『きっと何処にいても大丈夫』

「はぁ、はぁ、さすがにもう空港にいるか」

 雪の家に辿り着いたとき、時は既に遅かったのか、雪の家はもぬけの殻だった。恐らく聡と話していた時に最後の準備を終わらせてしまったのだろう。

「絶対に諦めねぇぞ」

 この街にある空港は一つしかない。そこに向かえば今なら雪と会えるだろう。けど、間に合う保証はない。聡と話したことによって、既に昼から夕方へと迫っている。タクシーが使えるのなら間に合うだろうが、あいにくの雪が降り積もっていて使えない。

「考えるよりも動くしかねえだろうが」

 どんなに雪で走りにくくとも、自らを奮い立たせて何も考えずに走り続ける。休むこともなく走り続け、空港にたどり着いたときには夕日は沈みそうになっていた。

 しかし、幸いにも空港内では雪のことを素早く見つけることが出来たのだ。そして、見つけたその瞬間には今までの疲れも吹き飛び、俺は真っ先に雪へと話しかけていた。

「なぁ雪。ちょっと待ってくれよ!」

 周りに人が居ようとも気にしないで俺は大きな声で雪を呼び止めた。けれど、雪は俺の声に気付いても尚、驚きと困惑に包まれたような顔をしながら逃げるようにして俺から遠ざかろうとした

「なんでそんなに逃げるんだよ!」

 搭乗ゲート付近へと逃げ去ろうとする雪を追いかけ、その腕を掴んでなんとか動きを止める。当然の如く雪は俺の手を払おうとするが、俺は断固として雪の腕を離さなかった。

「……マスター。分かったから離して……」

 俺の顔を見つめる雪の顔には涙が伝っていた。

「おう、悪かったな。無理やり掴んだりしてよ」

「ううん。私が怖くなって逃げてただけだから、奏斗は悪くないよ。私こそずっと避けててごめんね」

 雪は泣きながらも俺に謝ってきた。下を向きながら泣いている雪に対し、こういう時どういう言葉を掛けたらいいのだろうか。と悩みながら黙っていると、

「ねぇマスター。我はマスターと離れたくない、まだまだ沢山のことをマスターと楽しみたいよ……」

 俯きながらか細く吐いた雪の弱音に、俺の口は反射的に動き出した。

「雪、俺はお前が留学してる時も毎日メールするよ。時間が合えば電話だってする。そうして俺は雪との時間をこれから先も楽しむつもりだ。だからな、例え離れ離れになってもこんな風に繋がってればいいんじゃねえか、って俺は思うんだ。なんていうかそうだな。心で繋がってるっていうやつだ」

「でも、マスターは我と魔力探知の旅に行ってくれなかったし、我のような中二病は嫌でしょ?」

「前にも言っただろ? 俺は雪が中二病でも良いんだよ。例え一生中二病でも良い。ただただ、俺はこれから先もいつもみたいに雪と笑っていたいんだ」

「マスター。ううん、奏斗。ありがとう。こんな私に好きって言ってくれて。私も奏斗の事大好きだよ」

 凄く自然に放たれた言葉だった。突然の告白に俺の心は高鳴り、雪を抱きしめたい気持ちに襲われた。しかし、俺の動きを止めるように雪の出発の時間はやってきてしまい、俺は抱きしめるよりも雪を笑顔で送り出すことに決めた。

「雪! カッコよく行ってこい! この黒竜の使い手が魔力を蓄えながら待っててやるんだから早く帰って来いよ! 帰ってきたら魔力探知の旅に出発だ!」

 恥ずかしさなど消し去り、俺は搭乗ゲートへと向かっていた雪に高らかに叫んだ。

「うん! マスターの元にまた舞い戻ってみせるから!」

 日本を発つ前に最後に見せた雪の顔は笑顔であり、また、俺も涙など見せずに笑顔で送り出すことが出来たのだった。

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