52話『雪の視線には気付かない』
「よぉ、今日は早いな!」
「お前こそな」
学校に着くと、まだ生徒はまばらにしか居なかったが、健と絵美は俺よりも早く学校に来て話していた。話の内容は雪のことであり、主に今日来たとしたら何を話すか、という話だ。当然のように俺もその話へと入っていき、会話を続けていくうちにどんどん時間は過ぎていった。そろそろ、ホームルームが始まるという時まで雪は学校に来て居らず、先生が教室に来ると同時に雪はクラスへと入ってきた。
しかし、挨拶しようにもホームルームは始まっており、しかもホームルーム中に先生からサプライズ的に雪の留学の話が出ると、クラスメイト達はこぞって雪へと話しかけ始めた俺や健たちが話をする隙は一切なかったのだ。それに加え、ようやく雪と話せそうな時に限っても、雪はトイレに逃げたりなど、俺たちをあからさまに避けるようにして行動したのだ。
「なぁ、なんでこんなに避けられるんだろうな」
「俺に聞かれてもなぁ……」
「私が話しかけようとしても避けるのよね」
俺たち三人は全員避けられたことで困惑し、健に至ってはショックだったのか膝から崩れ落ちている。比喩ではなく、事実として健は両膝を床へとつけているのだ。そして、絵美は自分なら雪も少しくらい会話をしてくれるのではないかと思っていたらしかったが、あからさまに避けられたことにより、これまた表面上は見えないがショックを受けているのが分かる。
しかし、この事態によって雪は俺たちを除くクラスメイトとしか会話をしないということが分かり、俺たちは学校が終わって雪が一人になった時に話しかけることを決めた。だが、この作戦にも一つ注意事項がある。
それは、俺たちが不審者になってしまうのではないかということだ。
「よし、奏斗。お前に全てを任せる」
「そうね。一人のが大人数で迫るよりも話しやすそうだし、奏斗君に任せるわ」
雪の事情を少しは把握しているからこそ、ここまで避けられても怒らないのだろうが、絵美や健も本心では雪と話をしたいのだろう。だけど、二人は俺を選んでくれたのだ。俺が雪を好きだからなのか、俺が一番雪と話したがっているように見えたのかは分からないが、二人は俺を選択してくれた。絵美の言葉からわかる通り、本当は皆で話したかったのにも関わらずだ。
「そっか。ありがとな。もし話せたら二人の気持ちも伝えておくよ」
「もし、じゃないでしょ! 絶対に話すの!」
「そうだぞ。絵美の言う通りだ。絶対だ絶対!」
「お前らなぁ、下手したらストーカーみたいに思われちまうんだぞ?」
「もう半分ストーカーみたいなもんだろうがよ」
「そうね、こんな話をしている私たちはもう皆不審者よ不審者」
絵美の言葉で俺たちは堪らず笑いだしてしまった。
ひとしきり笑った後、俺たちは一瞬だけ雪を見てから窓へと視線を移して、空から落ちる雪を眺め始めたのだった。
――しかしその一方で、俺たちが視線を逸らした後、雪が俺たちを憂いを帯びた目で見ていたが、俺たちはその視線に気づくことはなかった。




