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51話『自問自答』

「……一体、どうすればいいんだろう…」

 一日というのはあっという間に過ぎていき、雪について考えていたら既に今日は終わりへと近づいていた。いつの間にか睡魔に負けた奏恵も寝てしまい、それを見て俺自身も眠ろうと思ったが、どうにも雪のことが頭から離れなかった。

「そもそも俺はどうしたいんだ?」

 俺の疑問に返答はあるわけでもなく、ただただ家の中は静寂に包まれている。しかし、それでも俺は、頭の中にあった一番の疑問を口に出して解消することにした。

「俺はなんで雪とこんなにも話したいんだ?」

 この疑問に対する答えは雪と離れたくないからだろう。だが、果たしてそれだけなのだろうか。そもそも、俺や奏恵、健や絵美、聡でも誰でも雪の留学を止めるのは不可能に近い。もちろん、雪がどうしても行きたくないのなら留学しないという選択肢はあると思うが、あくまでもそれは雪の意思で決めることであり、俺たちが止めていいものではない。

 ―――んじゃ、一体俺は何をしたいんだよ!

 心ではこんなにも理解しているのに、俺は雪と話をし、出来ることなら離れたくはない。しかし、前回のように強引に引き留めるのも間違っているだろう。


 そして、無言になって少しの間考え過ぎていた脳内の思考を纏めていると、ようやく一つの結論にたどり着くことができた。その結論は、ただ話をしたいというのを前提条件に、引き留めるという考えを脳内から除外することだけだったのだ。

「引き留めずに笑顔で送り出せばいいのか。そうか、なんで俺はこんな簡単なことにも気付かなかったんだ!」

 雪が自分から離れることを選択するのなら、俺は雪を待ち続ければいい。そう、たったそれだけのことで良かったのだ。余計に色々考えるからこそ空回りしていたのだ。今になって気付いたのは遅かったが、それでも俺の心は何故か晴れ晴れとしていた。まるで、長年考えていた問題が解けたような感覚だ。

「よし、寝るか!」

 今日出てきた結論を出来るだけ忘れないようにしよう、と思いながら、俺はソファに身を預けた。

 ……そういえばこうやって奏恵と一緒に寝るのも久しぶりだな。

 俺がソファに体を預けると、何かに気付いたのか奏恵は寝ぼけたままで俺の方へと頭を乗せ始め、またすぐに寝息を立てはじめた。そんな奏恵の顔を一瞬だけ見た後、俺も同じようにして目を瞑った。


 それから数時間が経ち、朝日が昇り始めたころに俺は目が覚めてしまった。欠伸によって出てきた涙を拭くために目を擦りながら俺は立ち上がった。

 しかし、ソファで寝ていた影響もあってか腰が痛くなっており、なんとか痛みを和らげるために朝早くから柔軟を始めた。

 柔軟をし始めてからしばらくすると、俺が居なくなった影響で寒くなったのか、いつもより早い時間だが奏恵も目を覚ました。起きてからすぐに柔軟を始める奏恵を見て、俺は何故か笑ってしまった。

「もう! なんでそんなに笑ってるのお兄ちゃん!」

「いやいや、やっぱ兄妹は行動まで似るんだなって思ってさ」

「え、それのどこに笑う要素があったの?」

「確かに、よく考えれば何も面白くなかったわ」

「でしょ! さ、お兄ちゃんも起きたなら朝ご飯の支度を手伝ってね!」

 奏恵と一緒にキッチンへと向かう前に、部屋を明るくするためにカーテンを開け、目に映る光景に驚愕する。

「お、おい奏恵! 雪が降ってるぞ!」

「―――ほんとだ! しかもこれは多分積もるよ!」

「あぁ、積もるなら早めに学校に向かわないとだな」

 それから俺たちは急いで朝の支度を終わらせて、それぞれ学校へと向かった。奏恵が雪で転んだりしないか心配な気もする。しかし、もし奏恵にその言葉を伝えたのならば、恐らく逆に俺が心配されてしまう未来が見える。まぁ、奏恵も兄に雪で心配されるほどの年齢ではないし、大丈夫だろう。

 ……もしかして俺はシスコンなのか……?

 頭に浮かんだ考えを、否定するように首を振ってかき消してから、雪が積もって歩きにくい通学路を歩く。

 通学路には早い時間ながらも少しずつ生徒たちが増えていたが、当然の如くその中に雪は居なかった。

「今日こそは会えるかな……」

 まるで恋する乙女のように、柄にもなく淡い希望を抱く。会えるかどうかなんてわからないが、それでも学校へと向かう足取りは自然と軽くなった。

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