5話 『厨二要素さえなければ可愛い筈なのに』
今日は始業式ということもあってか、学校は半日で終わった。クラスの人たちはこれから皆で交流を深める為に遊ぼうという話をしている。
かくいう俺も誘われはした。だが、雪が俺と帰るという約束を勝手にして断ったらしいので、俺は雪と二人で帰ることになってしまった。
「俺としてはもっと友達が欲しかったし行きたかったなぁ……」
雪が勝手に約束したのだが、俺はその約束を叶えて仕方なく雪と帰っていた。雪が執拗に誘ってきたのが原因ということも理由の一つだ。
マスターとは一緒に帰る運命だとかなんとか言って、確かに可愛い女の子と一緒に帰れることは嬉しいのだが、正直言うと初日の集まりくらいは参加したかったというのが本音だ。
「マスター。マスターは我と帰るのが嫌か? 私としてはとても嬉しいのだが―――」
「お、俺ももちろん嬉しいぞ! そりゃ、こういう集まりに参加したほうが友達は出来やすいと思うけど、俺としては一人の友人との仲を深めるのも良いと思ってるし、それに、単純に友達と学校から帰れるっていうのも嬉しんだよ。だから、その、なんだ。要は気にするなってことだ!」
自分でも混乱して適当なことを言ってしまった気がしたが、なんだか嬉しそうな顔をしているし大丈夫か。と思いながら雪の顔を見ていると、ジッと見られることに慣れていないからなのか雪は顔を少し赤らめながらそっぽを向いてしまった。
「あー、なんか腹減ったな。雪、今日は何時に帰る予定なんだ? 時間あるならご飯でも食べに行かねえか?」
「我が居城へと帰る時間は特には決まっていない。故に、我もマスターの魔力補充に付き合う!」
「そうか。それじゃ適当にどっか寄っていくか。あ、それと今度から外でも出来るだけ中二言葉はつかわないでくれ。絶対に使うなと言わんから自重してくれ」
段々と雪の中二病にも慣れてきたが、それと同時に雪の中二病の言葉をおおよそ理解出来てしまうのがなんというか、自分の中の中二病を肯定してしまう気がして嫌だった。
「我に言葉を封じろというのか。む……むむぅ。無理難題に近い気もするが、マスターの命令となれば頑張ってみるとしよう。わ、わ、私、私、我、いやいや私……か」
今まで私という言葉を使ったことがないのか、俺の前でたまに我と間違えながらも、必死に復唱していた。
そして、そんな姿を見て少し可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「あ、そういえばクラスの女子たちに我とマスターが付き合っているのかと聞かれたのだが、よく分からかったのでマスターは契約者だから、汝たちの想像通りで大丈夫と言ったぞ? 我は間違えてないよな……?」
こいつは一体何を言っているんだろうか。意味が分からない。というか、俺が今日の遊びに参加したいと言った時にニヤニヤしながら断られたのはこれのせいだろう。
確かに断られたときに嫌な顔をされなかったし、何故か普通に初日からクラスメイト全員とアドレス交換と電話番号を交換できた時点で友達? になる一歩手前までいけたことはとても嬉しい。だが、遊びも「また今度絶対誘うから今回は二人で帰りな」と健にまで言われたし、完全に雪と俺はクラスの中では付き合っているということになってるだろう
。
それに、何故か帰るときに女の子から「仲良くね!」や、「喧嘩はダメだよ?」とかも言われたし、健に至っては「襲うなよ?」とかいう意味も分からないことまで言われてしまった。これらは全てこいつの女の子たちに言った言葉の所為だ。
「なんでこんな事言われたのかわかんなかったけど、こういう事だったのか……まぁいいや。それで、雪もほかの人と電話番号とか交換したのか?」
「我は闇の力を持っている。それ故に機械の力などなくても、いつでもどこでも誰とでも繋がることが出来るのだ!」
「良いから携帯を貸してみろ」
ふざけて装飾されている携帯を持ちながらポーズを決めている雪にチョップを食らわし、携帯を奪い取る。もしもクラスの皆の電話番号がなくても、ひとまず俺の番号だけでも登録しようと思ったのだ。
「はぅ。痛い。でも、マスターの心配は無用。なんかクラスの人たちが勝手に全部やってくれた。けど、メールの仕方とかは分からない」
「そっか。良かったな。それじゃ、俺の番号を追加しておくからな。メールの使い方は俺が後で教えてやるからな」
初めての友達だからか、俺の中の親切心が動きすぎて雪に対してお節介を焼きすぎてしまった。友達と付き合い方がいまいち分からないから、どこまでが境界線なのか分からない。
「なぁ、友達ってどうゆう風に接したらいいんだろうな」
「ん? 我もよく分からないけど、マスターはそのままで良いのではないか?」
いつの間にか購入していたジュースを頭に乗せながら雪は平然と答える。
「そっか。でも、お前もちゃんとクラスメイトと仲良くするんだぞ?」
「私は、奏斗が居れば大丈夫だけど」
雪にとっては何も考えてない一言だろうけど、そんな一言で俺は少し顔が赤くなってしまった。
「ま、友達は居たほうが良いんだよ」
初めて雪が俺の名前を呼んでくれたこと、これも雪はきっと何も考えずに呼んだだけだろう。
けれど、そんなことでも俺は嬉しくなってしまい、なんとなく雪に軽いチョップを食らわしてから早足で歩きだした。少しだけ赤くなってしまった顔を雪に見られないためにだ。
「……あんな言葉、反則だろ……」
「ん? マスター、何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
そうか。と雪は言うと、スキップを始めた。なんにも喋らなければ雪は普通に見えるのに、どうして中二病になってしまったのだろうか。雪の背中を見ながら俺はそんな事を思ってしまった。