46話『雪の求める答えには届かないからこそ考える』
――それから時はスキー教室へと戻り、奏斗は雪があまりにも長く考え事をしていたこともあり、我慢できずに話しかけることにした。もちろん、まだ話しかけるのは緊張するが、仲良くなるには踏み出さないといけないだろう。
「お、おい雪。大丈夫か?」
「へっ? も、問題ない!」
「そ、そうか。それなら早く滑ろうぜ!」
「うむ! 我が聖なる滑りを見せてやろう!」
「ははっ。なんだよそれ!」
雪になにがあったのかはわからないが、突然いつもの雪に戻ったような気がして、雪の中二病と相まって何故か笑ってしまった。しかし、俺が笑ってしまったあとの雪の顔は少し悲しそうだった。
「ご。ごめんな。なんか笑っちまって……」
「ううん。大丈夫だよ。さっ、早く滑ろっか! それと私は初めてだから上手く滑れなかったらごめんね」
雪の言葉遣いはまた元に戻ってしまった。中二病発言を笑ってしまったのが原因だろう。でも、もしも雪が中二病を治そうとしているうえで言葉遣いを変えているのならば俺はそれに協力したいと思う。中二病でも、中二病を治しても、俺が雪のことを好きな事には変わりはない。だからこそ、俺は雪に聞いてみることにした。これで嫌われてしまうかもしれないが、俺はそれでも雪にとって少しでも助けになれればと思う。
「なぁ雪。雪はどうしたいんだ?」
「えっと、奏斗はどうすれば良いと思うかな?」
「そうだな。考えてないみたいな言葉になっちまうけど、俺は雪がしたいようにすれば良いと思うよ。中二病に戻っても良いと思うし、治そうと思ってもいい。どっちにしても、俺の気持ちも変わらないからな。ま、どっちかていうと俺は中二病の時の雪が好きかな……」
「そ、そうか! う、うむ。ありがとう。ちょっと考えてみるよ」
「こんなんで参考になるなら良かった。って、それよりも早く滑らなきゃ時間がなくなっちまう!」
雪の手を無意識に掴んで、俺は俺たちが滑れそうな場所へと走った。しかし、その頑張りは無意味となり、ペアでのスキータイムは終わってしまった。俺たちはただ話しているだけで時間を消費してしまったのだ。
「えっ! 話してるだけで終わったの⁉」
「お、おう。お膳立てしてもらったのにすまん……」
スキー教室も終わった後の休みの日、俺は絵美に呼び出され、スキー教室での雪との進展を訊ねられた。
最も、スキー教室では雪との仲は殆ど深まることはなかった。そして、普通に話すことは出来るようになったが、俺と話をしている間でも雪が一度以来中二病発言をすることはなかったということもある。
「はぁ、まぁいいわ。話せるようになっただけでも進歩と見るべきね」
「あぁ。それと少し話は変わるんだけど、雪の話し方を見る限り、雪はやっぱり中二病を治そうとしているってことで良いんだよな?」
「うーん。どうかしらね。雪ちゃんは奏斗君になにか聞いてきたかしら?」
絵美に聞かれて思い出せることと言えば一つしかない。勿論、俺が雪に聞いたことによる雪からの返答、「奏斗はどうすれば良いと思うかな?」という言葉だ。しかし、この言葉が中二病を治そうとしていることに直結しているとは考えにくい。そもそも、俺一人の意見で雪が治そうとは思わないだろう。何せ、雪の中二病は雪にとってアイデンティティなのだから。




