44話『雪の隠れた気持ち』
――私は、きっともう奏斗のことが好きなんだろう。恋というのは自分には縁がなく、一生しないものだと思っていた。だけど、奏斗と一緒に遊んだり、話したりしているうちに、私は気付いてしまった。
けれど、恋というのがこんなにも辛いのなら、私は、この感情に気付きたくはなかった。
「はぁ、奏斗のことが頭から離れないや……」
奏斗に告白されてから、私は奏斗の家にお邪魔することもなく、ただただ家で奏斗のことを考えていた。当然、奏斗の告白を断ったのは私ではあるが、それでも奏斗のことを考えてしまう。あの時告白を断っていなければ、奏斗を受け入れていれば、そんなことも無駄だと分かっているのに考えることは止まらない。
「でも、あの時の奏斗はなんか怖かったな」
暗い部屋で一人呟き、ベッドへと横になる。そうして目を瞑れば、いつしか眠り、奏斗のことを忘れられる。今はこっちの方が心地が良い。
「……でも、明日は話しかけれるかなぁ」
奏斗と接するのが怖くて避けてしまう自分に少し涙を流し、その後疲れて寝てしまった。
カーテンを開けながら寝てしまったがために、朝日が顔へと差し掛かり、私は眠りから目が覚めた。時計を見れば、まだ朝の五時だ。学校まではまだ時間がある。
「シャワー浴びよ」
朝からシャワーでも浴び、気持ちを落ち着かせてから学校に行けば幾分かマシな顔で行けるだろう。鏡を見て自分の顔を見れば、涙で晴れた目と、気分が落ち込んでいるのか酷い顔だ。
しかし、シャワーを浴びた後でも、私の気分は晴れていなかった。奏斗のことを相変わらず考えてしまうし、わざと学校でも避けてしまう自分に罪悪感を感じてしまう。きっと奏斗は私にもう愛想を尽かしているだろう。分かっている、だからこそ私から歩み寄らなければならないのに、私の心は動こうとすらしない。だけど、それでも私は、私の心は奏斗とのあの日常を求めている。
「え、スキー教室の班?」
落ち込んでいるまま学校へと着いた私にまず一番に声を掛けてきたのは、クラスでも仲の良い女の子だった。告白以来、私のアイデンティティである聖竜を表には出さないため、最近ではクラスの人も積極的に話しかけてくれている。もちろん、私からも話しかけてるが、今話しかけてくれた女の子は私が入学してからすぐに仲良くなれた友達だ。
「うん! それで、まだ班が決まっていないなら私たちの班に入らない?」
「うーん……どうしようかな」
私はチラッと視線を奏斗たちへと向ける。どうやら奏斗と健、それに絵美は同じ班になっているみたいだ。少し羨ましい。まぁ、私が部活にも行かないし、二か月近く奏斗たちとは会話もしていないことが原因なのだが。
「んー、やっぱり奏斗君たちと班を組む感じかな?」
「い、いや、ううん。正直迷ってる。今更話しかけて良いのかなとか、班を一緒に組んでほしいなんて言っていいのかなって……」
「そっか。雪ちゃんがそんな風に悩むなんて珍しいね。それなら、私たちはギリギリまで待ってるから雪ちゃんがちゃんと決めな! 駄目だったら私が慰めてあげよう!」
「う、うん! ありがとっ!」
「へへっ。良いってことよ!」
こんなにも私は良い人に応援されている。だから私は迷わない。ズルいかもしれないけど、逃げ道は確保したんだ。今日の放課後、部活に行こう。




