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43話『スキー教室で彼女は考える』

「うっひょー! やっぱり雪はいいなぁ! 見渡す限り真っ白だぜ!」

「おい健。はしゃぎすぎだぞ。トレーナーの方もお前のデカい声にビックリしてるじゃないか」

「おいおい、そんなわけ……ってマジかよ」

「ちょっと健! あんたうるさいわよ! 雪ちゃんを見習って静かにしなさい!」

「ば、ばか! そんな怒るんじゃねえよ! 余計に困惑しちまってるだろうが!」

 健は俺を盾にしながら、俺たちにスキーを教えてくれるトレーナーの人を見ていた。しかし、俺はこんな状況でも雪のことを考えてしまっている。健と絵美の会話にも笑って参加しつつ、未だに殆ど喋れていない雪の顔をチラチラと見てしまうのだ。

「あ、あのー。他のグループも滑り出しているみたいだし、こちらもそろそろよろしいでしょうか?」

 トレーナーの人の言葉を聞いた絵美と健は、そろそろ本格的に怒られそうなのを察知したのか、すぐに静かになった。当然、静かになったことにより、トレーナーの顔は困惑から笑顔へと変わり、手短に、かつ分かりやすく俺たちへと滑り方を教えてくれた。

 滑り方を教わり、今度はいざ滑ろうということにはなったのだが、ここでまた問題が発生した。二人一組を作り、ダメな点を教えあわないといけなかったのだ。普段ならば騒がしい雪も最近ではずっと無口だし、俺自身も今の心境で雪とペアを組むのは難しい気がした。だからこそ、俺は健に頼もうとしたのだが……

「お、わりいな。俺は絵美と組むことになったわ! 雪さんは任せたぞ!」

 くそ、この裏切り者め。俺の心境を分かっているはずなのにこんなことをするなんて悪魔なのかこいつは。っていうか絵美はよくこいつとペアを組んだな。もしかして、絵美なりになんか考えてくれてるのか?

 いや、今はそんなことよりもこの状況をどうにかしないといけない。まず、今回のスキー教室のグループ分け。俺と健と絵美、それに雪の四人班だ。そして、この中で二人組を作る。健は絵美と、俺は……はい。考えても無駄でした。

「それじゃ、俺たちはこっちの方で滑るわ!」

「……奏斗君。ごめんなさい。雪ちゃんから相談されたから、あなたたちになにがあったのかは知っているの。それで、敢えて強硬手段を取らせてもらったわ。だから、あなたは頑張りなさい。きっと、雪ちゃんはあなたを嫌ってなんていないからね」

 健と絵美が移動を始めようとしたとき、絵美が不意に俺へと近づいてきて小声で励ましてくれた。嬉しいような、悲しいような気持ちだが、確かに今の状況は雪と普通に話せるような関係に戻すにはちょうどいいのかもしれない。

「なぁ絵美。雪は、お前に相談してきたとき、なんか言ってたか?」

 これはズルい質問だろう。分かっている。けれど、この質問への絵美の回答次第では、俺は雪のことをきっと諦めるだろう。

「そうね。雪ちゃんは――」

「おーい! 絵美! 早く滑ろうぜ!」

 絵美の言葉は、健によってかき消されたが、口の動きでなんとなくわかった。雪は、絵美に相談したとき、「迷っていた」のだ。これをどんなふうに捉えるのかはその人次第かもしれないが、少なくとも俺は良い方向に捉えることが出来た。きっと雪が迷っていたのは、俺と付き合うかどうかだと思う。自惚れかもしれないが、もしもこれから俺がいつも通りの、雪がもしかしたら告白を受けてくれてたかもしれない俺に戻れば、可能性が生まれるという訳だ。都合のいい考え方をしているのは分かっているが、なんとなく雪としっかり向き合って、もう一度仲良くなろうという思いは増した気がする。そう、今なら俺は雪に話しかけ――

「奏斗。早く滑ろう」

「お、おおおう。そ、そうだな。よし、んじゃ、あっちの方が人も少なそうだしあっち行こうぜ」

 まさかの出来事だ。俺から話しかけようと思ったのに、まさか雪から来るとは。ついつい焦ってしまったかもしれない。

「うん。そうだね。そうしよっか」

「おう! あ、そうだ。雪はこういうウィンタースポーツとかは好きなのか?」

「ううん。あんまりわかんないかな? スキーも今回が初めてだし」

 あれ? なんだ? なんか違和感を感じる。なんだろう、雪が雪じゃないような気がする。いや、でも、今のお互いの状況で痛い発言とか、騒がしくするわけがないはず。

「……気のせいか」

 考え事をしながら歩いたせいか、いつの間にか雪と少しだけ距離が出来てしまった。また、雪も立ち止まってなにか考え事をしているみたいだ。話しかけて邪魔するのも悪いし、俺はその場に立ち止まり、少しの距離だが雪のことを待つことにした。

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