42話『悩みを聞いてくれる友達』
「それで、相談ってアレだよな。最近の奏斗の状態についてだろ?」
「察しが良いな。今日相談したいのは俺の感情についてだ」
二人で飲み物を注文した後、早速本題へと入り、俺は雪に振られたこと、雪が居なくなってからおかしくなってしまったこと、その時に考えていたことまで、洗いざらい全てを話した。健は相槌を打ちながらも真剣に聞いてくれて、健は健なりの解釈で俺の相談に対して答えてくれた。
「そうか。独占欲か……確かに依存してたしな」
「まぁそういうこった。でもな奏斗。独占欲っていうのはどうしても出ちまうもんだ。好きな人ひとり占めしたいのは当たり前。けど、その独占欲が膨らみ過ぎると束縛したり、苦しめたりする。だからそんなに落ち込むな。もしも、奏斗が独占欲の強いまま雪さんと付き合っていたら、奏斗はこの事に気付けなかった。むしろ、今回振られて良かったじゃねえか」
「……お前、ほんとポジティブだな。ま、でも確かに振られて良かった面もあるよ。雪の事しか考えてなかった頭がスッキリしてるし、それに……」
「それに? やっぱアレだろ。お前、依存しなくなって、よくよく考えたら雪さんの良さに気付いたんだろ」
「う、うるせぇな! そうだよ! 雪がどんだけ俺の中で大事な存在だったか気づいたんだよ! 悪いか⁉」
ニヤニヤしてくる健に、まくしたてるように思っていた事をぶちまけてしまった。ぶちまけたら余計に健のニヤニヤが増し、俺は自分が何を言ってしまったのか気付いた。気づいたら最後、俺は途端に恥ずかしくなってしまい、顔は自分でも分かるくらい赤くなってしまったのだ。
「ふひひっ。奏斗もようやく恋ってやつに気付いたんだな。けど、その気持ちは大事にしとけよ。今度こそ雪さんと付き合うためにな!」
「お、おう! 頑張って雪を振り向かせてみせるわ!」
気持ち悪い笑い方をした後にカッコいいセリフを言われても、いまいち響かないが、俺もこの気持ちは無くしたくないと思っている。この想いを持って、初めて雪にもう一度片思いが出来る。まぁ、振られた相手にもう一度片思いなんて無謀な気もするけど……。
「……ま、こんな偉そうな事言ってるけど、実は俺も一回絵美に振られてるからな」
俺の話を聞いて思い出してしまったのか、突然少し暗い表情になった健は自分が振られたときの話をし始めた。
「絵美! 俺と付き合ってくれ!」
「む、無理よ。あなたは自分が私に何をしてきたのかを覚えているの⁉」
「分かってる! けど、やっぱり俺は絵美が好きなんだ!」
「……あ、あなたが私を好きでいてくれるのは別に嫌じゃないわ! でも、やっぱり、あなたを受けいれるのは今の私には難しいのよ……」
――と、まぁ、何故かカフェの中だというのにも健は自分が振られたときのセリフを一言一句覚えているらしく、俺の前で演じている。
「――ってな訳だ。ん? なんだその目は。ま、まさか、俺の話を聞いてくれてなかったのか?」
「いや、普通に聞いてたけどよ。なんていうか、そう、大変だったな」
「なっ⁉ 反応がそれだけだと⁉」
「そ、それはお前、こんなところで一人二役で演技されてもな。どう反応すれば良いか分からねえよ。難しいわ!」
「ちっ。まぁいいさ。それで、今の俺と絵美の状況はというとだな、一応名前では呼んでくれるような仲にはなったかな」
健は椅子に座りなおすと、先ほどとは打って変わって、適当に絵美との進展を話してくれた。その話の中で分かったことだが、どうやら健が最初に振られたのは俺と初めて友達になった日らしい。今でこそ、絵美との話を笑いながら話せているが、振られたときはきっと落ち込んだのだろう。それを乗り越えたからこそ、健は絵美を思い続けながら友達として今の今までやってこれているのだ。
……だが、それに比べて俺はどうだろうか。雪を自分の物だと思い込んでいるかのように、聡から遠ざけようとしたり、雪の心が変わりそうになったら好かれようとする。そんな、自分の欲望を叶えたいだけの自分勝手な醜さしか持ち合わせていないのだ。
「……健。俺は醜い、かな?」
「いーや。お前は普通だよ。誰だって嫉妬ってのはするんだからな。好きな人が違う男と話してたり遊んでたら、少なからず嫌悪感は抱くし、もちろん嫌な気持ちに支配されそうになる。そう、それが恋なんだよ。だからこそ、好きな人からの好意をもらうために頑張らなきゃいけないし、今のお前が感じているような気持ちも理解して受け入れなきゃならない。難しいかもしれないけどよ、今その気持ちを少しでも受け入れた方が後々楽になるぞ!」
健は笑いながら俺の悩みへの解決策を教えてくれた。また、それと同時に俺の心の醜さを否定すらせず、逆に恋をしているのなら普通ということも教えてくれた。勿論、俺はこの言葉だけで俺自身が普通だとは思えないが、それでも健の言葉で救われたのは間違いではない。
「なんか、ありがとな」
「おう! 俺たちは親友だろ! 気にすんな! ま、二人で頑張って好きな人をゲットしようぜ! ダブルデートをいつかしような!」
「はははっ。なんだよそれ! まぁでも、いいかもなそれ。四人でデートは面白そうだし!」
俺たちはそれからも馬鹿みたいにもしも好きな人と付き合えたらしたい事や、行きたい場所なんかも話していた。気付けば外は日も落ちていて、すっかり夜になっていた。どうやら話過ぎたみたいだ。
――こうして健への相談も終わり、俺たちのスキー教室は始まった。




