41話『心を治すのは時間』
雪という、いつの間にか心の支えになっていた人物を失った俺の心は、振られたその日からどんどん黒く染まっていった。自分の事は嫌いになり、健や絵美とは話さなくなった。俺自身が拒絶し続けるのだ。今の俺の精神状態を知られたくない。ただその気持ちだけで、俺は全ての人間を拒絶した。それは、唯一味方になってくれると約束してくれた奏恵さえも含まれるのだ。
「お兄ちゃん。いい加減立ち直ったらどうなの? 家の中が辛気臭くなっちゃうよ」
「俺のことは放っておいてくれ……もう寝る」
「ま、初めての失恋じゃああなっても仕方ないか」
食事も喉を通らない、何かを考えようとする気力も、出かけたり遊んだりする気力もない。ただあるのは寝たいという思いだけ。起きていればまた雪のことを思い出してしまう。思い出せば出すほど、心が締め付けられるように苦しくなり、会いたくなる、今すぐにでも連絡したくなる。だから、俺は考えないように眠りへと逃げ続けた。
日が昇り、学校ギリギリまで眠り、学校ではずっと下を向いている。クラスの心配してくれる言葉に耳を貸さず、学校が終われば家に帰って、シャワーを浴びて、ほんとに少しだけご飯を食べて寝る。これの繰り返しだ。
そんな生活を続け、ついに雪と一切接しなくなってから、軽く二か月程度経った。時間というのは残酷なもので、あんなに「会いたい」、「話したい」、「連絡したい」という感情を抱いていたというのに、今はそんなに思わなくなっていた。
「お、なんか今日は久しぶりに顔色良いじゃねえか! 悩みは消えたのか?」
「悪いな心配かけちまって。もう大丈夫だ。ありがとな」
「良いってことよ! 友達を心配するのは当たり前だからな! それに、明後日にはスキー教室があるだろ? 俺は元気な顔をした奏斗と一緒に滑りたかったんだよ!」
健は良い奴だ。能天気で何も考えていないように見えても、実際は周りをしっかり見ている。悲しんでるやつが居たら励ましてたり、優しい言葉を掛けてくれる。どうして俺は今まで健の優しさに気付けなかったんだろうかと思うほどだ。
「お、スキー教室か。気分転換には良いかもな。でも、その前に、健。今日の放課後ちょっと相談に乗ってくれないか?」
「おっ! ついに頼ってくれるのか! 任せとけ!」
「おう。ありがとな」
健との約束を交わした後は、以前のようにとまではいかないが、クラスメイトとも少しは話が出来、授業も終わって放課後となった。放課後になってから健と共に向かったのは、健が初めて俺に相談してきたカフェだった。




