4話 『後の黒歴史となる自己紹介』
今にして思えば、学校に着いてからも雪と話していた事もあってクラス分けをよく見ていなかった。だからこそ、まさか雪と同じクラスだとは思わなかったのだ。
「なぁ雪。お前、さては俺と同じクラスってこと知っていただろ」
まるで偶然出会ったかのように雪はクラスで話しかけてきたが、雪の顔を見る限り、あきらかに知っていたという顔だ。
「マスター。よもやここでも会えるとは運命だな」
「いや、運命とかじゃないだろ。それと、学校内ではせめてマスターと呼ぶのはやめて、奏斗と呼んでくれ」
皆がみんな初対面という訳ではないが、明らかに変な会話を、それも男女でしているともなればクラスの雰囲気が少し悪くなるは必然だった。もちろん、中学で味わったような視線ではなく、どちらかと言えば妬ましく思われているような視線だ。
確かに、雪の本性さえ知らなければただの可愛い少女だ。もしも俺が周りの男の立場だとしても、妬ましく思ってしまうだろう。といっても、マスターという言葉を使っている時点でなんとなく皆も変だとは思っているはずだ。
「そういえばお前のその制服、指定の制服なのか?」
「それは、その……」
近くで見て思ったがどう見ても雪の制服は違う気がした。最初は中二病特有のアレンジを加えただけの指定制服だと思ったが、雪が少しどもっているのを見るに、指定制服ではないのだろう。先生がまだいないから怒られてはいないが、流石に中学の義務教育とは違う訳だし、怒られるのも時間の問題だ。
「はーい! 席についてー! ホームルーム始めるよ~」
チャイムが鳴り、雪の制服事情を聞く前にやけにテンションの高く若い先生がクラスへと入ってきた。
「それじゃ、最初のホームルームだし、自己紹介でもしてもらおうかな! やっぱりクラスのみんなには仲良くしてもらいたいしさ!」
先生の言葉には賛成できるが、どうにもこういう先生は中学時代から苦手だ。きっと、本当に良い先生だとは思うし、第一印象だけで決めるのは良くないし、これから先の生活で理解できれば良いだろう。
それに、中学の頃は友達もできなかったし、高校では友達が欲しい。幸いにも予定していた通り同じ中学の人はいないし、俺の中二病を知っている奴は雪以外には居ない。これなら上手く友達作りも出来るだろう。
「それじゃ、まずはそこの可愛い女の子からいこうか!」
雪の席は窓際の一番後ろ。
そして、先生の指差した方向にいるのは眼帯をしている雪だった。そう、最悪なことに自己紹介は雪から始まってしまったのだ。
「あいつ絶対中二な言葉使うよなぁ……」
俺がボソッと呟くと、突然後ろから肩を叩かれてしまった。
「……なぁなぁ、お前と今から自己紹介する子は付き合っているのか? なんかさっきマスター? だかなんだかよく分からないこと言っていたけど……」
「い、いやいや、付き合ってはねえよ。たまたま通学中に出会ってちょっと仲良くなっただけだぞ」
「そうなのか。俺的にはなんとなくお似合いな気がするけどな~」
むっ……もしかして、こいつは俺の中の中二病を読み取って、中二病の雪とお似合いと言っているのか? いや、さすがにこれは疑心暗鬼になりすぎか。
「うーん。俺とはさすがに不釣り合いな気がするけどな」
突然絡んできたことにはビックリしたが、知らない男である俺にも分け隔てなく話しかけてくれたこいつは優しい奴な気がする。
「あ、そういやお前の名前はなんて言うんだ?」
「おっと、それは自己紹介を楽しみにしてな。とびっきりのを計画してきたんだよ」
「おお! それは楽しみにしとくわ」
こいつと会話していて忘れていたが、雪の自己紹介はそもそも始まってすらいなかった。
どうやら中二病特有の謎のポーズをしていたらしく、時間が掛かっているようだ。クラスの人たちは一体何が起こるのか楽しみにしていたらしく、思っていたよりもこのクラスは中二病に対して寛容という可能性もでてきている。
そして、ようやく雪が口を開き自己紹介を始めた。もちろん、俺はこれ以上中二病を暴露しないように祈っていたが、そんな祈りが一瞬で潰れることくらいは分かっていた。
「我が名は聖竜を封印せし者。この眼帯は魔眼を封じている故に外すことは出来ない。包帯も同様、マスターの許可なしでは封印解除はできないだろう。ちなみにだが、マスターは……」
あまりにも中二病のセリフが出てきすぎて、俺自身の中学の時の自己紹介を思い出してどんどん心が痛くなってきている。だからこそ少し目立つが―――
「雪、自己紹介が長いぞ‼」
「むっ、まだまだ言うべきことはあったが、マスターに言われてしまったならばここで止めるとしよう」
雪がポーズを決めながら椅子に座り、ようやく一人目の自己紹介が終わった。座ってからも雪は腕を抑えたりしているが、他のクラスメイトを見る限りは雪を止めたのは正解だった筈だ。まぁ、案の定クラスは雪に対して少し引き気味だし、先生すらも対応に困ってしまっている。
「あー、うん! 個性的な自己紹介をありがとうね! それじゃ、どんどんつづけていこっか!」
先生がなんとか無理やり繋げてくれて、無事に自己紹介は終わった。俺はもちろん中二病のセリフを一切使わずに、至って普通に自己紹介を終えることが出来た。
そして俺の後ろに座り、話しかけてきた男は駿河健と言うらしく、自己紹介を楽しみしていろと言っていた割には特に面白くもなく、滑っていたのは言うまでもない。ただ、皆の自己紹介を聞く限り、他の人たちの中学もこの辺りではなかった。皆が地元から離れてここを選んだのは、この学校が有名な進学校だからという理由があるからだろう。
「それじゃ、今日はホームルームだけで学校はおしまい! 明日からは授業も始まるから遅刻しないようにね! 高校生になって浮かれるのも良いけど、あんまり羽目を外しすぎたら怒るからね。って、先生の言葉じゃないか。とりあえず気を付けて帰るんだよ~!」
先生からの言葉を聞き、俺たち生徒の初日の学校は幕を閉じた。