39話『雪の決意』
「……あれ、珍しいな」
普段なら殆ど機能することのない携帯が光り、メールが来たことを示してくれた。メールの差出人は奏恵であり、内容は、「頑張ってねお兄ちゃん」という簡単なものだった。しかし、そんな一言でも俺の心は動かされてしまい、自室に戻ってから、俺は絵美へと電話した。俺のことを否定した絵美に、俺自身の覚悟を話すためだ。もちろん、電話に出てくれる保証なんてなかったが、なんとか夜の遅い時間にも関わらず、絵美は電話に出てくれた。
「こんな遅い時間にどうしたのかしら?」
「突然でごめんな。でも、お前にはなんとなく伝えておきたくてさ。俺、明日雪に告白してみることにするよ。ようやく決心がついたんだ」
正直、絵美からしてみれば、今日覚悟もなくピエロのように演じてた男が覚悟を決めたとか言っても、意味わからないだけだろう。でも、それでも、俺は絵美に変わったことを知ってもらいたかった。
「あらそう。でも、声の様子からしていつもの奏斗君に戻ったのね。だったら私は応援するわ」
「絵美……ありがとな」
「な、なによ急に。で、用件はこれだけ? 私も眠いからもう切るわよ?」
「おう、ゆっくり休めよ。おやすみ」
「えぇ、あなたもね。おやすみなさい」
絵美との電話も終わり、俺もベッドへと入り横になった。ここまできたらもう引き返せない。出来るだけ振られたときの事は考えないようにしつつ、俺は眠りへとついた。
「――奏斗と魔力探知の旅、行きたかったな」
薄暗い部屋の中で、メールの画面を開きっぱなしの携帯を握りしめながら、私は夜空を見て呟いた。
それから、二日目の学園祭も今度は中二病にならずに普通に過ごした俺は、徐々に緊張して動悸が激しくなっていく胸を抑えつつ、放課後を迎えた。さすがに学園祭の片づけ中に告白する勇気もない俺は、雪と一緒に帰って、その途中で告白するという作戦を立てた。雪はまだ帰っていない。チャンスは今しかない。
「ゆ、雪! そのアレだ、今日……」
「ん? どうしたのだ?」
雪の顔を見ると顔が無条件で赤くなって、目の前に居る雪に対して上手く言葉が出ない。いや、それどころか顔すら上手く見ることが出来なかった。これでは一緒に帰ろうという風に誘う事すら難しい。
「――あ、そうだ! 奏斗! 今日は一緒に帰還しようではないか!」
「お、おう! そうだな!」
俺が言葉に詰まっているのを察してくれたのか、雪は逆に俺のことを誘ってくれた。正直な話、とても有難いことだが、自分から誘いたかったっていう気持ちも俺にはあった。まぁ、既に返事もしてしまっているし、こんな事考えても無駄でしかないが、なんとなく恥ずかしくて誘えない自分が情けなくなった。
「帰りにどっか寄るか?」
「うーむ。今日は普通に帰ろう!」
「そっか。んじゃ帰ろうぜ」
「うむ!」
雪が俺の隣に立ち、一緒に歩き始めた。雪と一緒に歩いて帰ることは俺の中では特別珍しいことはなかった……筈だった。けれど、今の俺の心の中は嬉しいという感情が渦巻いていた。前までは感じたこともなかった感情だ。
「雪、ちょっとそこの公園寄って――」
俺の口からここまで言葉が出たが、
「――奏斗。全部正直に話してくれないか? 我は分からないのだ。考えても考えても分からない。昨日も一晩考えてみたけど、最近の奏斗はなんか無理をしている気がするのだ……特に昨日なんて……」
俺の言葉を遮りながら雪は悲しそうな顔をして、俺のことを見てくる。初めて見る雪の表情だ。俺の行動に対して雪がここまで考えてくれているなんて思っていなかった。それに、まさか雪が昨日の俺のことをおかしいとまで思っているなんて想定すらしていない。むしろ好印象だと思っていたのに……。




