36話『正しい答えはもう知っている』
雪が支度を済ませて戻ってきてから、いつも通り朝ご飯を食べて学校へと向かった。当然、奏恵が高校初日の時のように、俺の今の姿を心配してくれたが、俺は奏恵の心配に耳を貸さず、「問題ない」――とだけ言って家を出た。
「奏斗! 見ろ! 我らは注目の的になっている! このままでは組織に襲われてしまうかもしれないぞ!」
「ふはははっ! むしろ組織に襲われることすら今の我は望んでいる。見ていろ、我の力を使って隠れている組織の奴らを滅ぼしてくれる。――汝が真名は漆黒を望みし大罪。暗き闇から汝の力を開放し……ちっ、魔力が足りないか。この体も久方ぶりだ。致し方あるまい。組織の者どもよ、生き永らえたその命、我が奪い取るまで精々大事にしとく事だ」
俺の詠唱や言葉で、可哀想な奴と思われたのか、俺と雪を見ていた人たちは居なくなっていた。もしかしたらコスプレと思われたのかもしれないが、なんにせよ色んな人から好奇な目で見られ続けるということはなくなった。
「ま、マスター、かっこいい……」
一切の羞恥心を捨てて行動した結果、雪は俺のことを目を輝かせながら見てくれている。これだけでも恥ずかしいセリフを言った価値はあるというものだ。
「――魔力の気配を感じる。移動するぞ」
「なっ! さすがはマスター! 我でも気付かなかったぞ!」
色々適当に言っても雪は付いてきてくれる。中学の時に考えた設定なんかがこんな形で約に立ってくれるとは思わなかった。ホント、あの時の俺には感謝しかない。
雪と共に路地裏や暗い場所を経由して学校へとたどり着き、俺たちはクラスへと入った。既に何人かのクラスメイトが集まっており、その中には健や絵美も居た。当然、学校に着いてからも、突然黒いコートや剣を背負って登校してきた俺をジロジロと見てくる生徒も居て、もれなく絵美と健も驚きながら凝視してきていた。
「奏斗君、ちょっと来てくれるかしら?」
驚いて止まっているクラスメイトの中で、最も早く動いたのは絵美だった。俺の近くへと寄ってコートを掴むと、誰も居ない屋上へと続く階段の踊り場まで引っ張ってきた。
「おい、離せって、破けるだろ?」
「はい、離したわよ。それで、どうしてあなたはそんな恰好で来ているのかしら? 卒業したんじゃないの?」
絵美が俺のことを無理やり引っ張ったおかげで雪は今この場にはいない。雪がいないのなら、中二病を演じる必要性はないだろう。
「……別に、絵美には関係ないだろ」
「えぇそうね。別に関係ないわ。でも一つ忠告してあげる。そんな風になってまで雪ちゃんに想われたいのかは知らないけど、―――今のあなた、凄く醜いわよ」
「うるせぇ。良いんだよ俺はこれで」
「そう。私はもう戻るわ。胡桃沢君も学園祭実行委員なら仕事くらいは全うしてちょうだいね」
絵美には嫌われただろう。当然だ。こんな醜い男俺でも嫌いになる。けど、今の俺にはこんな事しか考えられなかった。
「……わかってるんだよ、俺だって」




