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31話『花火大会』

 夏休みに海というイベントも終わり、筋肉痛で悩む日々を過ごした後、俺は今までにないピンチを迎えていた。それは、夏休みが終わる事……ではなく、夏の花火大会だ。俺が行きたくもない花火大会に行くことになったのは主に自業自得だ。


 ――時を少し遡り、俺がリビングでカレンダーを見ながら夏休みの終わりを嘆いていた時だ。

「夏休み……君と過ごした夏は忘れられないよ……お願いだからもう一度顔を見せておくれ……」

「奏斗! 明日なんだが、この町で祭りがあるらしいぞ! どうやら魔弾を空に放ち、爆発させるという奇妙な事もするらしい!」

「あれ? 雪ちゃん花火見たことないの?」

「花火……?」

「その顔は見たことなさそうだね。んじゃ、丁度いいや、明日のお祭り一緒に行こっか!」

「うむ! もちろん奏斗も一緒に来てくれるのだろ?」

「いや、俺は行かねえよ。テレビで十分だし、人混みが苦手なんだよ」

「駄目だよお兄ちゃん! お兄ちゃんは埋め合わせをしてくれるって言ったもん! それに、花火は絶対テレビで見るより綺麗だよ!」

「うっ……行くしかねえかぁ~」


 ――とまぁこのように、奏恵に対して埋め合わせをすると言ってしまったことが原因なのだ。まだ花火大会の時間には早いっていうのに、既に準備している雪と奏恵を見て、今更めんどくさいと言えるほど俺に度胸はない。

「奏恵、お前浴衣の着付けなんて出来たんだな。すごいな」

「んーん。着付けは雪ちゃんがやってくれたよ! 雪ちゃんがバババッって着付けてくれた!」

「マジか。あいつ、こんな特技も持ってたのかよ」

「奏斗。着付けくらい我には造作もない。余裕。でも、褒めてくれるなら嬉しい」

 俺に頭を撫でろと言わんばかりに雪は俺に近付いて屈んだ。なんていうか、浴衣の雪は普段よりも圧倒的に可愛く、近づかれたら顔が赤くなってしまう。

「あー! お兄ちゃん、雪ちゃん見て顔赤くなってる!」

「な、なってねえよ! 何言ってんだ馬鹿!」

「動揺しちゃってるじゃん全く~」

「ちょっと早いけど行くぞほら! 今のうちに動いた方が人も少ないだろ!」

「お兄ちゃん! 照れ隠しするのはいいけど急ぎすぎ!」

「……我を見て顔が赤くなる……?」

「雪ちゃん! お兄ちゃんに置いてかれないように行くよ!」

「う、うむ! では往こう!」

 雪を見て赤くなってしまった顔を見られたくない一心で家を飛び出てしまったが、すぐに雪と奏恵は追いついてくれた。雪が追いついたときにはなんとか赤くなってしまった顔も戻ってくれて助かった。


 花火大会の時間までまだ早いが、俺たちは花火大会の会場までたどり着いた。時間が早かったこともあって、良い具合に人は少なく屋台もあまりない。花火を良い場所で見たいと思っている人は少し居るようだが。

「なんかこんなに早く着いちまうならビニールシートでも持ってくればよかったな」

「えっ? ビニールシート? なんで?」

「いやだって、花火を見るのにあった方が便利だろ。今ならある程度の場所なら取れそうだし」

「そういう事ね。あんなに行きたくなさそうにしていたお兄ちゃんがそんな事考えてくれるなんて思わなかったよ」

「うむ。我も奏斗の言葉には驚かされた。てっきり、さっさと住居に帰りたいと言い出すかと思ったのに……まさか我がマスターである奏斗の考えを読み違えるとは……不覚……」

 二人の言う通り、確かに俺は家を出た段階では帰りたかった。しかし、家を出てしまえば別だ。普通に花火は楽しみだし、出来るなら座って見たい。もちろん、人が多くなってきたら帰りたくなる気がするが……。

「ま、ないもんをねだっても仕方ないしな。普通にそのまま座って見るか」

「それもそうだね。それじゃ、今のうちに良い穴場を探してみる?」

「奏恵! それなら我に任せよ! この辺りなら我が異世界の門を開くために探索済み! 案内する!」

 自信満々の雪に続いて俺たちは歩き出し、屋台のある場所から少し外れた場所に案内してくれた。明かりもなく、上から屋台も見渡せて、さらには人も居ない良い場所だ。屋台からもそんなに離れていないため、屋台が賑わいだしてからでも買いに行けるだろう。

「雪ちゃん! よくこんな場所知ってたね!」

「ふふん。我はどんな場所でも千里眼で探し出せるのだよ!」

 奏恵も喜んでいるし、俺は雪の頭を一度撫でた。一瞬嫌がられるかと思ったが、普通に嫌がられることもなく普通に撫でさせてくれたのには驚きだ。そして、辺りが段々と暗くなってきている中、雪は上から増え始めている人たちを見て、「人がゴミのようだ……」――とか言っている。その言葉、中学の時の俺なら確実に雪と一緒に言っているだろう。

「お兄ちゃん! 花火始まる前に屋台行こっ! 早く!」

「おう。奏恵と、雪もだけど、暗いからそんなに急ぐと転ぶから気をつけろよ」

「大丈夫! 我は夜の闇を見渡せるほどの目を持っているから!」

「私も視力が良いからまだ大丈夫だよっ!」

 一度穴場から出て、俺たちは屋台へと戻った。何を買うかなんて決めてなかったが、雪は何でも食べ物なら欲しそうに見ており、奏恵もまた同じだった。財布の中身にあまり余裕はなかったが、奏恵も居るし、仕方なく今回は全部奢ることにした。まぁ、射的で遊んだり、金魚すくい、輪投げなども奏恵や雪と楽しめたし、思い出になるのならこれくらい安いもんだ。

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