28話『無駄な一日もまた良い』
次の日、俺が起きたときには雪が戻ってきており、奏恵もベッドから居なくなっていた。俺がいつもより遅く起きたことも原因だが、二人とも家にも居なく、昨日話していた通りに甘い物でも食べに行ったんだろう。まさか俺に何も言わないとは思わなかったが。
それにしても休みというのは本当に最高だ。どんだけゲームをやっても怒られないし、まるで一時でもニートになった気分だ。これはやめられない。引きこもりにはなりたくはないが、家で怠情で過ごすのはとても良い。
「……けど、時間を無駄にしてる感すごいな……」
ふとした時に少し虚しくなったが、考えるのをやめて俺はゲームへと視線を移した。ゲーム画面には美少女が俺との恋愛を待っている。そう、俺はこの世界に没頭しなければならないのだ。なにせ、奏恵が居たら俺がゲームのセリフに対して反応しているのを「キモイ」と言われるし、可哀想な目で見られるのはちょっと悲しい。
「もうこんな時間か。そろそろ帰ってきそうだな」
外を見れば太陽は沈みかけていた。ゲームをやっていて時間を気にしていない所為もあり、俺の服装はもちろん寝間着。着替えないと奏恵に怒られそうだ。
「ただいまー」
「我は今帰還した! 奏斗! 今日こそは共にお風呂へと入って親睦を深めよう!」
バカうるさい二人が帰ってきたが、それ以上に雪の言葉が何を言っているのか分からない。一度も誘われたことがないし、普通に考えれば同じ歳の男女がお風呂に入るとかおかしい。
「奏斗? 返事がないぞ! 我では不服ということか!」
「やめろ! 引っ付くな! 鬱陶しい! っていうか、一緒に入るわけがないだろ! 馬鹿かお前は!」
雪が玄関から俺の元へと飛び付いてきたが鬱陶しいことこの上ない。なんていうか、高校生になったばかりの俺なら嬉しかったが、今や雪は妹みたいだし何も感じないのだ。
「ほら、雪ちゃんもあり得ないこと言ってないで、私とお風呂行くよ。汗もかいたでしょ」
「うっ……奏恵にもダメと言われるのか……我は普通に親睦を深めたいだけなのに……」
「逆にお前はどうしてそんな考えが持てるんだよ! 普通に考えろ! 女子高生だぞお前!」
「そうだよ! 雪ちゃんは高校生なんだよ? お兄ちゃんとお風呂なんて恥ずかしいでしょ!」
「はっ! で、でも、奏斗は我の貧相な裸体など興味はない筈……しかし、そこまで言われるなら諦めるしかないか……」
雪の体が貧相とは思えないが、なんとか奏恵の説得もあって諦めてくれたから助かった。もちろん、次にいつ誘われるか分からないが、奏恵に任せておけば自分が何を言ってるのか分かってくれるはずだ。頼んだぞ、奏恵……。
けれどこの日を境に、雪はなぜか俺と一緒に寝ようとしたり、何かと一緒に居ようとしてきた。別にゲームの邪魔をしてくるわけでもないし、俺と一緒に家事もするからこそ何も言えない。どうせ、俺と一緒に居るのが自分の使命とか、中二チックに言うなら、俺との同調を深めて魔力を高めれるとか思っているんだろう。むしろそれ以外に俺と一緒に居る理由が考えられない。
「ねぇ雪ちゃん。ここ最近どうしてお兄ちゃんとばっか一緒に居るの?」
奏恵が気になってしまったのか、ついに雪に理由を聞いてしまった。
「むっ? 我は奏斗の魔力の質を近づけるためにこうして奏斗の傍に居るのだ。それに、今の奏斗は隙だらけ。我が守らないと襲われたときに困ってしまう」
「いや、家から出てないから問題ないし、これは前にも言っただろ?」
「た、確かに。奏斗は休みが始まるや否や、家から一歩も出ていない。我が守らなくても大丈夫か! それじゃ、次は奏恵を守る!」
「えぇ⁉ 私⁉ ま、まぁ良いけど! ちゃんと守ってよね! ……なんて」
奏恵は舌を出しながら笑い、雪に抱き着いている。これはこれで良い光景だ。
「イチャイチャしてねえでご飯食べるぞ。今日は暇だったから色々調べて豪華にしたからな」
「ほんと⁉ 食べる食べる!」
「あ、雪ちゃんのぬくもりが!」
妹よ。我が妹ながらそこまで悲しそうに雪が離れたことを俯くのはどうかと思うぞ……。
この日も少し騒がしいくらいで雪と奏恵の一日が終わったが、生活習慣がもう変わってしまった俺の夜は終わっていない。ゲームを夜もして、朝日が昇ると同時に寝てしまった。




