26話『寂しい日』
夜ご飯は奏恵が作ってくれていることから、健にカフェで俺への感謝やら他にも絵美の魅力やらを語られていたが、一時間程度で帰らせてもらった。健はとても満足そうな顔して帰っていったが、俺は久しぶりに一人で帰ることとなったので少しだけ寂しかった。雪といつも一緒に帰っていたことが原因だろう。
「っし、今日は久しぶりに走って帰るか!」
決して早く奏恵に会いたいとか、雪に会いたいわけではない。ただの体力作りだ。そう、それだけだ。――けれども、家に帰ってからも俺がその日雪に会うことはなかった。
「おい雪。帰るのが遅くなるなら一言言っとけよ。奏恵も夜ご飯作っちゃっただろ?」
家に帰り、雪が帰るまで夜ご飯を待っていたが、一切の連絡はなかった。奏恵もお腹が空いてそうだし、俺は痺れを切らして電話を掛けたのだ。
「済まない奏斗……我は帰りたかったのだが、その、絵美が今日家に一人のようで、襲われたら危険だし、その……」
「なんだそういう事かよ。それなら早く言えよな。ご飯は俺が食べとくから、今日は絵美に構ってやれ」
「うむ。明日には帰る。奏恵には休み中に魔力の回復できる甘いものをご馳走すると言っておいてくれると助かる」
「はいよ。言っとくから、とりあえずあんまり騒がないようにな」
「了解した!」
雪との電話が終わり、俺は奏恵に雪が今日は帰らないということを伝えた。
「えー! 今日雪ちゃん泊まりに行っちゃったの⁉」
「なんだ? 寂しいのか?」
「さ、寂しくなんてないし! ほら、早くご飯食べよ!」
「あ、そういえば雪が奏恵に甘い物を奢るってよ。良かったな」
「ほんとに? やった!」
さっきまでちょっと寂しそうにしていた奏恵が突然喜びだし、鼻歌を歌いながらご飯を温めだした。そんなにも甘い物が食べたかったんだろうか。いや、どちらかといえば、雪と出掛けることが嬉しいのかもしれない。
「どうせ雪のことだから何も考えてないだろうし、どこに行きたいか考えておけよ?」
「うん! 前々から行きたい場所あったし、そこにする予定! お兄ちゃんも一緒に行く? 明日から休みでしょ?」
「いや、俺は家でのんびりゆっくりしてるよ。二人で楽しんで来い。むしろ、俺は一人でゴロゴロ出来て嬉しいしな」
「全く。だからお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ!」
「え、それどういう事なんだ?」
おれの問いかけに奏恵は答えてくれず、黙々とご飯を食べてお風呂に行ってしまった。確かに、奏恵と出掛けるのなんて買い物以外ではあまりない。だからこそ奏恵は俺とも出掛けたかったのかもしれない。




