23話『皆でお出掛け』
「だめっ、お兄ちゃん!」
「も、もう良いじゃねえか。……いっていいよな?」
「まだだめ。私がまだ、だから……」
荒い息遣いにもなってしまうほどに俺たちは熱中し、遊んでいた。時間なんて忘れて遊んでいたせいか、突然奏恵の部屋の扉が開いたときにはビックリして変な声を出してしまった。
「ふ、二人とも! その、外に漏れてるから!」
「「ん?」」
いつの間にか帰ってきた雪が慌てながら叫んでいるが、そんなに声が漏れていたのだろうか。あまり大きな声は出さないように注意したが、雪が言うのだから聞こえてしまっていたのだろう。
「あっ、その、ゲーム? ……わ、我がただいま帰還した! 今回も異世界の門を開くには魔力が足りなかった。それだけが無念……」
こいつはなにがしたかったんだろう。やけに慌てたかと思えば、今度は今日の成果を発表しだすし、もしかしたら、帰ってきてから誰も構ってくれなくて寂しかったとか。
「あーその、お前もこのゲームやるか?」
「う、うむ! 我に任せよ!!」
「雪ちゃんおかえり! 早く一緒にやろ~」
今回奏恵に付き合わされているゲームは赤の髭のおっさんと緑の髭のおっさんを操作して、ステージをクリアするゲームだ。奏恵が俺をゲームに付き合わせたのには理由があり、奏恵は致命的にゲームが下手なのだ。だからこそ、俺は雪へとゲームをバトンタッチし、夜ご飯の支度を始めることにした。もちろん、夜ご飯の支度と言えば、奏恵が無理やりゲームをやらせてこないと分かっているからだ。
それから、夜ご飯を作り終えた俺は、二人を呼んでご飯を食べた。この時初めて、雪と奏恵がプチ喧嘩をしていたのには驚いた。理由を聞けば、俺でも遠慮して言わなかった奏恵のゲームセンスについて雪が指摘したからだそうだ。最も、一緒にお風呂に入るころには仲直りしていたが。
――それから時は少し経ち、今日が部活動の日となった。奏恵も付いてきたそうにしたいたが、丁度この日に友達との予定があったらしく落胆していた。正直、俺からすれば友達に誘われるなんて羨ましい限りだ。
「マスター、今日は魔力を使って音を自在に操って遊ぶということでよいのか?」
「うーん。ま、そんな所だな。ってか、雪はカラオケ行った事あるのか?」
「我はそのようなところ行ったことないが……? 今日初めてだ!」
無駄にドヤ顔して言うことでもないが、実は俺自身もカラオケは初めてなのだ。リア充が行きそうな場所にはなんとなく近づけなかったし、一人で行くのは怖い。
「お、もうみんな待ってるみたいだな。良かった」
雪に俺も初めてということを伝えようかと思ったが、その前に健たちと合流する場所に着いてしまった。まぁ別に言う事でもないし、黙っていても問題はない。
「よお! 今日も絶好のカラオケ日和だな!」
「あら、時間ぴったりね。やるじゃない」
「マスター! 本日は私の力をお見せします!」
みんなの言葉に「おう」とだけ返した後、俺たちはみんなでカラオケ店に入った。当然のことながら雪は聡と恥ずかしいセリフを言いあったり、絵美を弄ったりして遊んでいた。勿論、絵美には怒られていたが……。
「なぁ健。俺カラオケが初めてなんだけど、下手だったらどうしよう」
「そんなの気にすんなよ。適当に歌えばいいんだよ。気楽にな! それに、絵美も初めてだぞ」
「ちょっと! 駿河君! バラさないでよ、恥ずかしいでしょ!」
初めての割には楽しそうに歌っていた絵美が小さく話していた俺たちの会話を聞き取り、マイク越しに大きな声で怒ってきた。マイクの所為で頭がキーンとなったのが辛い。
「女王! 次は我の番だ! 貸せ!」
絵美の曲も終わり、次は雪の番となった。初めて奏恵以外の歌声を聞いたが、相当に上手く、俺の番が来るのが恥ずかしくなってきた。
「女王はやめなさい! 絵美って呼んでいいから!」
「わかったから早く貸せ! 歌が始まる!」
「そうだそうだ! マスターに早く魔力伝達機器を渡せ女王!」
「うるさいわね馬鹿!」
ワイワイしながら騒いでいる三人を見ながら、俺と健は適当に雑談していた。これはこれで良いものだ。それから程なくして、雪が絵美からマイクを奪い取って歌い始めた。日本語ではない曲だが、雪は流暢に歌っている。
「これ、何語の曲なんだ?」
「この曲はドイツ語ね。それにしても上手すぎるわ。雪さんって帰国子女だったりするのかしら」
「あいつに限ってそれはないだろ……」
雪のことだから、中二病であることを極める為に覚えたとかそんなもんだろう。何せ、俺も一時期英語を猛勉強した。理由はもちろん―――カッコいいと思ったからだ。
「そういえば絵美も英語とか得意だったよな?」
健の言葉に俺はびっくりしてしまった。やはり、中二病というのは他の言語をまなびたくのだろうか。
「そうね。そこそこは出来るし、話せるわよ。にしても、雪さんみたいに歌うとかは無理だけどね」
俺たちが話している間にも雪は歌っているが、ドイツ語という発音すら難しそうな言語を綺麗に歌っているのは本当にすごい。絵美も上手かったが、雪も負けず劣らずだ。
「奏斗! 我の歌はどうだ⁉ 心を奪えるくらいの威力はあったか⁉」
「いや、よく分からんけど、とりあえず上手かったぞ。それに、ドイツ語とかハイスペック残念少女ということも分かったぞ」
「なっ! 我が残念⁉ あり得ぬ……はっ! 奏斗にとっては我などは残念ということか……」
「マスター! このような奴の言葉は聞く価値ありません! マスターの歌はサーヴァントの心は奪えましたよ!」
「おっと、次は俺の番だな。ワイワイしながら騒いどけ。あまり聴かなくていいからな」
こんな言葉を言った事自体が間違いだった。普段からうるさい雪すらも黙り、俺が歌っている間は誰一人として喋ることがなかった。聴いてくれたのは嬉しいが、そこまで上手くないだろうし、少し恥ずかしい。
「ほ、ほら、健。これパス!」
俺の曲が終わったとき、俺は真っ先に健にマイクを渡した。後のことはこいつに任せればいい。なんとなくカラオケとかめっちゃ行ってそうなイメージがあるからな健は。
健が盛り上げてくれたこともあってか、カラオケは無事に楽しく終わった。聡が地味に歌が上手くて、ガチのハイスペックというのにまた少し劣等感を覚えたのは内緒だ。




