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22話『雪のいない日』

 次の日の朝、けたたましく鳴るアラームを止めて俺の目は覚めた。学校でもないのにアラームをセットしてしまったのが俺の落ち度だ。

「今日から学校休みじゃねえか……失敗したな」

 二度寝しようにも俺は目が冴えてしまっていた。それもこれも、隣でいつの間にか寝ている雪が居るからだ。しっかりと奏恵と雪が一緒に寝に行ったのを確認したのに、どうしてか雪は俺の隣で寝ているのだ。俺が理性をなくして襲い掛かったらこいつはどうなるか分かっているのだろうか。

「奏恵ぇ。眩しいぃ……死ぬぅ……」

 雪を無理やり起こすためにカーテンを開けてから俺は部屋を出た。すでに奏恵はいつも通り朝ご飯を作っている。いい匂いがリビング中に広がっているくらいだ。

「ねぇねぇ、雪ちゃんそっちの部屋に居なかった? 朝起きたら居なくてさー。「ますたぁ……」って寝言言ってたし、どう?」

「奏恵の言う通りだな。雪は俺の部屋に居たし、隣で寝てたぞ。さすがの俺も男子高校生だし危なかったな。次からはちゃんと見張っててくれよ?」

「何言ってんのお兄ちゃん。――まぁいいや、雪ちゃん今日お出かけするらしいし起こしてくるね! 朝ご飯冷めちゃうし!」

 奏恵が俺の部屋に向かっていくのを見つつ、俺は洗面台へと向かって顔を洗った。……少しだけ雪が出かける事を気にかけつつ。


「……おはよぉ、ますたぁ……」

 奏恵が起こしに行ってから何分経ったのか分からないが、普段なら絶対学校に遅刻している時間に雪は起きてきた。寝ぼけた目を擦りながら起きてくる雪は中二病要素など感じず、至って普通の美少女だ。って、俺は何を考えてるんだ。雪が隣に居たことでおかしくなったのか?

「お、おお! おはよう雪。出かけるんだろ? 支度しなくて良いのか? 何時に集合なのかは知らねえけどな」

 雪がそもそも今日出かけるという事すらも知らなかったのだ。どこに行くのかも、何時に行くのかも、誰と行くのかも……いや、これは知っている。

「――はっ⁉ マスター! 我は目覚めた! 支度よりも魔力補給をしたい!」

「はいはい。とりあえず顔洗ってこい。飯はそれからだ」

 雪にとって出かけることよりも奏恵のご飯のが優先らしく、急いで顔を洗いに言った。まぁ、もちろん集合時間がまだ先なのかもしれないが。


 ――それから着々と時間は進み、朝ご飯を食べてから昼を回り、既に午後の時間を迎えていた。雪はいつ出かけるのだろうか。時計をたまに見てしまうことから、俺は心の中では気になっているのだろう。

「なぁ雪。お前、聡との約束はどうしたんだ?」

「へっ⁉ 約束⁉ あっ……い、今からなのだ! 行ってまいる! 夜の魔力供給には戻るから安心してくれ!」

「いや別に夜ご飯も食べてきていいけどな」

「むっ。奏恵のご飯こそが我の魔力を回復して、封印も力を強めるのだ。即ち、我は奏恵のご飯がないと封印が解けてしまうのだ! もちろん、マスターのご飯も可っ! ――とにかく、異世界の門を開放してくる!」

 確実に約束を忘れていた雪は、慌ただしく玄関に向かう。この光景だけを切り取って見れば、家族のようにも見えるだろう。もちろん、俺はそんな風に思われても嫌な気持ちにはならないが。

「雪ちゃん! 今日はどこに行くのー? お兄ちゃんは一緒じゃなくて良いの?」

 玄関で靴を履いている雪を引き留めたのは、トイレに行っていた奏恵であり、実に厄介なことを雪に聞いている。雪がこんなことを聞かれたら当然、

 マスター! マスターも共に行こう! マスターが居れば絶対門は開かれるから! 行こう、早く着替えて! 早く!」

 奏恵の言葉を聞いた雪は、目を輝かせながら俺の近くへと走ってきた。その勢いのまま、雪は俺の手を引いて俺の部屋へと向かおうとした。だがしかし、俺は動かない。

「嫌だ。俺は行かねえ! 今更異世界の門とか興味ないし! もうあんな恥ずかしいこと出来ねえよ!」

「大丈夫! マスターには結界を張るから民衆からは見えない。安心して付いてきてほしい。それに今の言葉は経験者っぽい言葉! 是非とも我と共に!」

 必死な雪に対して俺も応えたい。応えたいが、俺は家から出たくない。ゲームしたいし、アニメ見たい。それに、今回の長期連休は部活もある。部活というか、カラオケに皆で行くという只の遊びだが、俺はその用事以外では友達に遊びに誘われないか、奏恵との買い物などを除いては家から出るつもりはない。決して聡が居るからとかじゃなく、普通に中二病は卒業したから恥ずかしいし、それに今日はもうティータイムの時間だ。

「ごめんな。今日は奏恵とティータイムを楽しむんだ。だから早く行ってこい。遅れたら可哀想だろ? 既に大遅刻なんだし」

「ぐっ、奏恵とならば仕方ない。では二人とも行ってくるぞ! 我の帰還を心して待っているといい!」

「おう。さっさと行け!」

「行ってらっしゃい雪ちゃん。気を付けてね」

 ふはははっ、と高らかに叫びながら相変わらずなテンションで雪は聡と出かけて行った。

「――それで、お兄ちゃん? 家に引きこもりたいからって、私を理由にしたのはなんでかな?」

 奏恵のこの顔は少し怒っているときの顔だ。こうなったら仕方ない。俺は財布の紐を少しばかり緩めることにした。

「よし奏恵。これで何でも買ってきていいぞ。俺は部屋でゴロゴロしてるから!」

「だーめ。お兄ちゃんは罰として、お金をしまってから私との遊びに付き合う事!」

「げっ。はぁ、分かったよ」

 俺は財布から出していたお札を戻し、奏恵の部屋へと奏恵と共に向かうことになったのだった。

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