2話 『これは脅迫では?』
学校初日とはいえ、始業時間から結構前に家を出た為、時間的にはまだまだ余裕だった。だからこそゆっくり歩き、学校までの道や景色を覚えることにした。
「こうして歩いていると地元とは全然違うというのがハッキリわかるな」
地元とは違い、俺の中二病を知っている人が居ないというのは心に余裕が持てた。そう、俺の中二病を知っているのは今現在妹だけのはずだったのだ俺の黒歴史を知られないためにわざわざ中学からは遠い場所に引っ越した。中二病とはどうしても離れたかったのだ。なのに……どうして今目の前にいるこいつは俺の中二病を知っているのを知っているのだろう。
「汝に問う。我は左腕に聖竜を封せし者。汝は右腕に何を封している?」
俺の通る道を塞ぎ、大きい声で恥ずかしいセリフを喋るこいつのお陰で、俺までもこいつの同類だと思われてしまっているのかもしれない。今や学校周辺だというのに、周りの人から注目を浴びている。俺にとってはいい迷惑だった。
そもそも、この中二病全開の女の子が話しかけてきたのは今よりも少し前だ。
「そこの者! 汝からは我と同じ気配を感じる! そして、その右腕を包みし布。我と同じではないか。よし、我と同じならば話は早い、我は道に迷った。案内を要求する!」
やはりこいつとの出会いを少し思い出してみても、やはり普通ではないし、ドキッとする要素はひとつもなかった。
中二病の同類だと思われない為にも、一刻も早くこの場から去りたい気持ちもあるが、もしもここでこいつを見捨てたとして、こいつが本当に道に迷っていたとしたら俺は最低な男になってしまうだろう。
そもそも、こいつがどこに行きたいのかもわからないし、こいつがどうして俺のことを中二病だと思っているのかも分からない。もはや俺の頭の中はこんがらがっていた。
「汝、我の話を聞いているのか?」
困惑して固まってしまっている俺の顔を覗き込むように女の子は見始めてしまった。
「ふはははっ! よくぞ見破った、我こそは右腕に黒竜を……って、違―う! ちょっとお前、いいからこっちに来い!」
困惑してしまった俺はついに昔の口調で反応してしまった。奇跡的に周りの人たちは子供の遊びだと思って呆れたのか、既に居なくなっていた。
だが、こいつの言葉に困惑したとはいえ、中二病の時のように反応してしまったり、気づかないうちに腕に包帯をまいていたりと、俺の中二病はまだ抜けきっていないのだろう。
「はぁ……」
とりあえず場所を変えるために人気の少ない場所に移動したのはいいが、自分の中に中二病が根強く張り付いていることにため息がでてしまった。
「やっぱり黒竜のマスターだったか! これこそ運命だ! 一緒に世界を取ろうではないか!」
一見可愛く見える女の子だが、やはり残念な女の子らしく、俺は無情にもこの場に見捨てて話を聞かずに学校へと向かうことにした。
「うん。俺は中二病を卒業したんだ。だから、あいつとは関わらない方が良い筈だ」
「何故だ! なぜ逃げる! 汝は我がマスターになるべき存在だぞ!」
「あーはいはい。わかったわかった」
こいつに絡まれていたおかげで、学校へもあまり時間がなくなっていた。だからこそ、もうこの中二病にかまってあげる時間はない。学校で変な噂を立てられる前に、俺は包帯を外し、歩きながら鞄へと仕舞った。
「汝、その封印を取ると黒竜が暴れだすぞ⁉」
「右腕が疼く……って、んなわけあるか! ……んで、お前は俺に付いてきているが、どこに向かっているか分かっているのか?」
「力の扱い方を学ぶ場所だろう?」
「学校だからな」
今思えば、こいつの服装は俺と同じ高校の指定制服に似ている。中二病ということもあり、こいつは自分なりにアレンジを加えたのだろう。けれど、同じ高校なら話は早い。こいつとは一刻も早く離れて生活しよう。このままでは高校生活が中学時代の二の舞になってしまう。
「汝、足が速いぞ! 置いていくな! 置いていくのなら……汝が中学の時……」
俺はこいつの言葉を聞き、動き始めていた足を止め考える事にした。