19話『サーヴァントという設定の中学生』
「はい、受け取りました。ありがとう」
別に止めようという気持ちはないが、そもそも俺が止める前に雪は入部届を書き終わって渡していた。
「まさか拒否権すらないとはな……」
「マスターの意思を読み取った我だからこそできたこと。そもそもマスターは拒否するつもりなんてなかっただろうし」
「まぁな。別に拒否はしないよ。ただ、俺たちが入ったところで部としての本格的な活動は出来なくないか? 五人いないんだし」
この部活にはまだまだ謎は多いが明らかに他の部活よりは楽だし、出来ることなら部としてしっかりと成立させたい。しかし、俺には友達が居ないから部に誘えるような仲の奴はいないし、他の奴らもおおよそいないだろう。
「マスター。その件なら任せてほしい。宛ならある」
それだけ言うと、雪は携帯を取り出してから誰かに電話をかけ始めた。
「我だ。緊急事態発生。今すぐ我のもとへと集まれ。場所は……ぐっ、早く来てくれ……っ!」
苦しがっているポーズを取る雪に対して俺たちは冷ややかな目を送っていたが、その刹那、部室の扉は大きな音を立てて勢いよく開いた。
「サーヴァントが一人! 御剣みつるぎ聡さとる、マスターのピンチに駆けつけました! それで機関の仕業ですか⁉ それとも、魔術結社⁉」
まためんどくさい奴が来た。雪のことをマスターとか、雪が俺のことをマスターと呼んでるのを知ったらどう思うんだろうか。それに、何気に顔が良いのがムカつく。まぁ、ただの嫉妬だが別に顔にも出さないし、口にも出さなければ問題ないはずだ。
「……奏斗。どうして俺たちの部活にはこうも変な奴が多いんだ? 別に引いたりはしないけど、わざわざ無駄に言い回ししなくても良くないか?」
「普通の人ならそう思うのはしょうがない。むしろ、お前が普通の感性を持っててくれて嬉しいよ」
確かに、健にとってはもはやこんな場所は魔境に見えるだろう。今この場に居る奴の八割は元中二病か現役中二病なんだしな。
「よく来たな。我は今しがた回復魔法で回復したから問題ない。それよりも、聡。この部活に入って」
「かしこまりました! では、入らせていただきます!」
なんだこの従順な犬みたいなイケメンは。まるで犬か。イケメンの犬とか誰得だよ。いや、イケメンの犬なら需要があるか。
「い、いやいや雪ちゃん⁉ 誰なのそれ!」
「女王。こいつは我のサーヴァント。異次元からの呼び出しに応じてくれた――」
「――ちゃんと答えろ。みんなが困っているだろ」
雪の頭に久しぶりにチョップをし、雪にちゃんと話させる。だがこのサーヴァントと呼ばれる聡が黙ってるわけがなかった。
「マスター⁉ こ、こいつは、何をしてるんですか⁉」
「うるさい聡。奏斗は我のマスター。故に、聡のマスターでもある。だから、マスターの言うとおりに従って自己紹介するといい」
雪が俺のことをマスターと呼び、聡は雪をマスターと呼ぶ。うん。ウザい事この上ない。ここいらで名前をちゃんと呼ばせることを覚えさせたほうが良い。じゃないと、俺の脳がおかしくなる。
「ぐぬぬ……仕方ない。俺はじゅにあ、はい? すくーる……中学三年生! 聖竜の使い手のサーヴァントであり、俺は聖剣の使い手。覚えてくれていいぞ」
なんとなく英語を使って自己紹介したくなる気持ちは分からくもないが、こいつのは論外だ。俺の中学なら確実に笑われる。って、思い出すな、俺。
「あ、あのね、中学生は部活には参加させれないかな? 多分だけど……ちょっと聞いてくるね! 駿河君も一緒に来て説明お願い!」
「合点! 任せとけ!」
絵美の奴、厄介な奴の相手をしたくないからか、真っ直ぐ先生のもとへと行ってしまった。残された俺は微妙な感じだ。友達の友達とかもはや他人だし、イケメンの陽キャは正直俺にとって苦手以外の何者でもなかった。




