13話『まさかの事態』
―――翌朝、奏恵がいつも通り朝ご飯を作り、雪も寝ぼけながら学校の支度を始めた。雪が居る以外はこれといって変ではない日常だ。雪も奏恵の中ではもう家族らしく、一緒に寝たことからだいぶ仲良くなったのだろう。
「それじゃ、俺と雪は行くからな。奏恵も遅刻するなよ~」
「奏恵、また帰ったら会おうではないか」
「うん! 行ってらっしゃい!」
いつの間にか奏恵のこと名前で普通に呼んでるなー、と思いながら俺と雪はマンションを出て学校へと向かっていた。奏恵が朝ご飯を作り、俺と雪が食器洗いをしていたこともあって、時間的には少し急がないと危なそうだった。なんとなくこうなる事は予想していたが、やはり一緒に登校している時点で同じ学校の生徒からは視線を集まっていた。
「一緒に登校するべきじゃなかったか……」
「マスターが注目されている。これは新手の刺客が来る気配だ!」
「馬鹿やってるともっと注目されるだろ。早く行くぞ」
「うむ。注意しながら進もう」
雪は相変わらず自分の戦闘フォームを崩さずにポーズを決めながら歩いている。当然、俺は巻き込まれたくないので少し離れて歩く。
「はぁ、学校で何を言われるんだろうなぁ。行きたくないなぁ」
「問題ない。マスターを守るためならば組織の四天王が襲ってきても勝ってみせる。最悪は聖竜と黒竜の合体でフェーズ2に移行して、固有結界に閉じ込めて倒す。難敵でも最終フェーズに入って奥義を発動させれば――」
「どうしてお前はそう恥ずかしいセリフを色んな人が見てる前で言えるんだよ」
「既に我は聖竜と融合している。故に普通の人には姿は見えない。だから大丈夫」
「なんだかんだお前の精神は強いよな」
とにかく今は学校で俺たちがどうなっているかが問題だ。クラス公認カップルになっている可能性すらある。そんなことを考えていると、俺の普段は絶対に鳴ることのない携帯が音を鳴らし、震え始めた。
「マスター! その音は我々の味方による暗黒組織からの秘密保持失敗の定期連絡の可能性がある。ここは我に任せて対処させてほしい」
「はぁ? もしかしてお前……」
「違う! 我はマスターの護衛のためにマスターの居城へと侵入したと暗黒組織に通達しただけ。マスターは既に組織によって護衛対象になっている。本来ならマスターにバレないようにするはずだった。組織は思った以上に秘密に対して緩いらしい」
もうこれはダメだ。終わった。雪はクラスの人に対して俺の家に泊まったことを暴露したらしい。だからここまで焦って俺が電話に出ないようにフェーズ3だとか、眠りの魔物によっての思考停止による不具合とか色々言っている。
「とにかく、電話は出ないと駄目だから出るぞ。話はそれからだ」
「あぁ~……」
電話の相手は昨日知り合った健であり、内容はやはり俺と雪の関係性だった。どうやら雪は昨日の夜に寝る前にクラスの人にメールを送ったらしく、俺たちが学校に着く前なのに電話の奥から騒いでる声が聞こえる。
「今回は機械による不具合も考慮し、我は許されるべきである。それに、マスターとの情報はクラスの人にも伝えるべきだと昨日の我は判断した。しかし、今日の我によればマスターとの関係は容易にバラすべきではないと理解した。我の思考は進化! 第二形態!」
「……それで、謝罪の言葉はどうした?」
「ごめんなさい。マスターへの配慮が足りなかった」
「それでよろしい。クラスに着いたら皆に説明するんだぞ」
「第二形態へと移行した我ならば余裕。ノアの箱舟に乗った気持ちでいてほしい」
「ノアの箱舟かよ。俺は動物か! とにかく、ちゃんと説明しろよな」
第二形態とか言いつつ、包帯を外している雪の手を無理やり取り、急いで学校へと向かった。