11話『家族団欒?』
とりあえず着替えも終わり、リビングへと向かうと、そこにははしゃいでいる雪が居て、どうしてか俺を見つけた瞬間に雪はこちらへと向かい始めた。
「マスター。マスターの妹君は凄い。我が手伝うことなくおいしそうな料理を作ってた。聖竜も匂いにつられて暴れそうなくらい!」
リビングに俺が来た瞬間に雪は俺にぶつかるんじゃないかってくらいのスピードで近付き、早口で奏恵のことをほめてくれた。妹を褒められるというのは初めてなことだし、素直に嬉しかった。
「興奮するのは良いけど、夜ご飯食べたら帰れよ? 明日も学校あるんだからな」
奏恵が謎に雪のことを気に入っているみたいだし、雪が一人暮らしのことを知ったら、「寂しいし泊まっていきなよ」と言う気がするが、流石に雪は断るはずだ。なんてたって年頃の女の子だしな。
「学校はどうでもいい! それよりもご飯!」
「どうでもいいのかよ……とにかく騒いでないでお皿とかの準備しようぜ」
「もちろん! それくらいは私もする!」
ご飯に興奮して喋り方すら変わっているし、相当嬉しいんだろう。でも、少し考えてみれば雪が中二病であることは置いといたとしても、高校初日から可愛い子が家に来て俺と遊んだり、マスターと呼んでくれたり、妹にも気に入られる。そんな奇跡的な事が起こる確立が一体どれ程のものなのか考えながら、俺も料理を並べる手伝いを始めた。
「なぁ奏恵。ちょっと作りすぎじゃないか?」
無事に奏恵の作って夜ご飯もテーブルへと並べられ、家の中はパーティーのようになっていた。普段は二人分ということを考慮しても、明らかに三人では多すぎる量だった。けれど、主におかずばかりで肝心のご飯はないし、雪は一体何を作るつもりだったんだろうか。
「まぁまぁお兄ちゃん。おかずばかりなのにはちゃんと理由があるんだよ」
奏恵がキッチンに戻って何かを持ってこようとしているが、その間にも雪はお腹が空いて仕方ないのか、箸を手にもって早く食べたいと訴えるかのような視線を送ってきた。まるで「待て」をされている犬のようだ。
「で、理由ってなんなんだ?」
「ふっふっふ。これを見て!」
キッチンから戻った雪が手に持っているのはいい匂いのする酢飯と、それに使うであろう、黒い物だった。
「まさか、その黒いのは海苔か!」
「マスター……早く食べないと我の中の聖竜がしんでしまうよ~」
「雪ちゃんがやばいじゃん! ほらお兄ちゃん! 今日は手巻き寿司だからどんどん巻いて! 雪ちゃんの分を作ってあげて!」
「なんで俺が作るんだよ。自分で巻けるだろうが!」
「いやいやお兄ちゃん。雪ちゃんをよく見てよ。もはやお腹空きすぎて倒れそうじゃん。ほら見てみ?」
奏恵に言われた通り雪を見てみると、もはや涎が垂らしそうなくらい料理を見つめていた。これは確かに俺が作ってあげるべきなのかもしれない。
「マ、マスター……わ、我はもうダメ……」
「ああもうわかったよ! 作れば良いんだろ⁉ ほら、形は悪いけど文句は言うなよな!」
目の前にある食材を適当に海苔で巻いて雪の口へと放り込んだ。
「マスター。変なのを混ぜすぎ。美味しくない……」
「うるせえ! 文句言わずに食べろ!」
「お兄ちゃん! 雪ちゃんのことを考えてよ!」
「えぇ……まさかの俺が悪いのかよ」
奏恵も初めてのお客さんで嬉しくなったのか、いつもよりも多く喋り、楽しい雰囲気のまま俺たちは夜ご飯を食べきった。ただ、終始パーティーのように騒いでいたので近所の人には迷惑を掛けたと思う。
「さてと、今更なんだけど、雪ちゃんのこと雪ちゃんって呼んで大丈夫だった? 年下からこんな風に呼ばれるのは嫌だったかな?」
「いや、マスターの妹君にならなんと呼ばれても問題ない。して、我は妹君のことなんて呼べばよいのだ?」
「奏恵で良いよ!」
「了解した。奏恵殿、よろしくたのむ」
「殿って、普通に呼び捨てで良いよ~」
「ふ、ふむ。こういうのは慣れてないのだが……か、奏恵……?」
「う、うん! それでね、雪ちゃんさえ良ければなんだけど、一緒にお風呂に入らない?」
完全に雪と奏恵の仲が深まってしまい、俺が会話に参加できる感じではなかった。しかし、今の奏恵の言葉は雪にとって迷惑になるだろう。
「奏恵。さすがに雪もそれは困るだろうが――ってむしろ喜んでるのかよ!」
「当たり前。マスターの妹君と共にお風呂など嬉しいに決まっている」
雪の言葉に俺は驚いたが、ひとまずは雪に家へと戻ってもらい、替えの服を持ってきてもらうことにした。




