後編 影灯浪
夢で見たものなのでちぐはぐなのはご勘弁ください……
気が付くと母親がパートから帰ってきており、部屋で寝ろといわれた。
しかし、二階に上がればまたあの黒い人型をみるかもしれない。そう思うと怖くて上がれなくなった。
「宿題が終わってないしみたいテレビあるからここでいい」
「そう?なら母さんねるわよ?」
「うん、おやすみ、母さん」
「はーい」
こうしてその日は乗り切った。
次の日、友達に話したが嘘だろ~って一蹴された。
まぁ、信じて貰えるとは思ってなかったし、例え俺が似た内容を話されたとしても信じないだろう。そういうものだ。
それから数日経ち、俺は二階に上がるのが面倒くさいという理由を付け、母親が寝室に使っていた和室を自分の部屋にした。
母親の荷物をそのままに、ゲームやベッドや教科書を移動させ、普段着ない洋服などは二階に置いていた。
和室を自分の部屋にしていこう何も起こらなくなった。
リビングに布団をしいて寝ている母親も特に異常はないらしく、日常が戻ったように思えている。
だが──そんなある日、それは起こった。
◇◇◇◇
その日は休日で、部活も終わりゲームをしていた。
一段落し、ふと顔をあげると──
スーッ
と、目の前を青白い淡い光が横切る。
それは、小さい時にみたものと変わらないもの。
だけど、嫌な予感がする。
スーッ
また淡い光が横切る。
しかし、その色は赤だった。
「……赤いオーブは危険なもの」
誰にいうのでもなく俺はそんな事をいった気がした。
あたりを見回すと、俺の畳んだ布団の上にあった枕が浮かんでいた。
なんでだ? そう思う間もなくその枕は和室の開いた扉から飛び出し、母親がいるリビングへと行った。
「な、なんなの!?」
母親が悲鳴のように声を荒げ、疑問を投げかける。
その間も、中に浮かぶ枕は母親を叩きつける。
「やめろ!!」
俺は必死に枕を取ろうとするが、枕は俺の手をすり抜け、母親を叩くのを辞めない。
スーッ
枕の周りには赤いオーブが一つ飛び回り、まるでオーブが意志を持つかのように枕を振り回す。
「もうやめて!」
ふと視界に洗濯物を干す棒が入る。
「母さん伏せて!!」
「っ!」
母親が伏せるのと同時に俺は棒を横に振る。
ポスッ
そんな音を立て枕は落ちる。
時刻は午後8時10分。また、8時……。
俺が気絶してから確か約8日くらいだった。
そして、今日また起きた……。
そこで俺はふと5年前を思い出した。不可解な物音、そしてあの黒い靄が現れたのはその物音がした部屋。
もし……あの時部屋を覗いていたら……。
「なんだったのよ……何か知ってる……ってすごい顔してるわよ?」
「……なんでもないよ」
「なんでもない訳──」
「なんでもないよ!!」
底知れぬ恐怖に声を荒げて答えてしまった。
◇◇◇
あれから約8日……
特に何も起きることはなかった。
◇◇◇◇
それから2年の月日が経ち、俺は地元を離れ、都内の私立高校に入学し、今は寮から高校に通っている。
母親も、祖父母と住むことになり祖父母の家に移った。
夏休みに入り、祖父母がいる母親の実家に遊びに行った。
あの家は未だに入居者はいないらしく空き家のままだ。
地元の友達と遊んだ時、妙な噂を聞いた。それは、あの家の事だ。
その噂は俺が高校に入学し、母親が祖父母の家に住むことになった次の月に起きたことらしい。
首吊り自殺をした女性がおり、その女性が発見されたのが二階のあの部屋だ。
それ以来、不可思議な減少が起きるようになったという。
曰く、何もしてないのに窓ガラスが割れ、翌日には戻ってる。
二階の窓から女性が外をじっと睨んでいる。
黒い影が家を徘徊してる
などだ。
その噂全てに関係してるのはどれも起こった時刻が同じなのだ。
──午後8時。
その話を聞いた時、なんでか分からないが行かなきゃいけない気がした。
◇◇◇
それから準備をした。
懐中電灯に携帯電話。デジタル式の腕時計と数珠。
そして、地元の神社で買ったお札と清めた塩、手洗い場の水を入れた2リットルのペットボトルを2つ。それをリュックサックに入れ、背負う。
そして、何故か神社に置いてあった木刀。
かつて住職がお祓いに使っていたという木刀で、その神社に行った際、持っていけと言われた。
何故木刀かと思ったが深く考えず持って行った。
眼前にはかつて住んでいた家がある。2年ぶりに来たこの家。時計を見ると時刻は午後7時50分。
ぎぃぃ………
嫌な音を立て、勝手に玄関の扉が開く。
「そっちが招くってんなら行ってやる……」
そう口にだして、懐中電灯を点けて家に入った。
玄関で塩を撒き、靴を履いたまま家に上がる。
靴を履いたままではどうかと思ったが何が起こるかわからない。
いざ逃げる時の為に履いたまま入った。
二階に上がり、かつて自分が使っていた部屋を見る。
何もない。
そりゃあそうかと思い時計を見る。
──午後7時56分。
一応部屋に塩を撒き、隣の部屋も覗く。
そこには何もおらず、ほっと一息。
とりあえず一階に降りてみようと階段を下りた。
ピピピッ
腕時計のアラームがなる。
スーッ
赤い光が横切った。数は2つ。
「……赤いオーブは危険なもの………2つはとても危険」
そんな事を俺は言った気がした……。
急いで階段を下りた。
オーブはまだ俺の目の前にある。
そしてオーブは階段のそばにある和室に飛んでいく。
俺はそれを追いかけた。しかし、そこには何もなく未だにオーブが漂ってる。
念のために塩を撒き、喉を潤そうと水を飲もうとした。
だが、よく見ると水が濁って見えた。
水を投げ捨て辺りを見渡す。
ふと、リビングの窓が気になり近づく。
すると光源はない筈なのに、窓だけがはっきり見え、そこに影が映る。
その影は女の人の影だった。
するとその影の近くにロープが吊り下がる。
その影はロープを首にかけ首吊り自殺の再現をした。
……特になにも起きない。拍子抜けだと思ったとき。
ボキボキッ バキバキ ゴキンッ
そんな音が聞こえ、目の前の影が暴れる。
俺は何を思ったのか、
「かかってこいよ!!怖くなんかねぇ!!かかってこい!!」
と、口に出していた。
やめろ!と思うが口が勝手にしゃべる。
バリン!!
窓が割れる。
何かが来ると感じ、和室の方へ逃げる。
そして、影が室内に入ってくる。
よく見ると人の形をしていた。しかしその姿は歪だった。
ブリッジの態勢だが、肘の関節は内側に曲がり、つま先や膝をこちらに向けている。
キェキェキェ!
聞くに耐えない声をあげるそいつを塩を撒いた和室におびき寄せる。
和室にそいつが入った途端──
ぎゅいぎゃぁぁぁあ!!
耳障りな奇声をあげるそいつを懐中電灯で照らす。
するとそいつの周りにある塩が黒く染まる。
ヤバい……
そう感じ、塩を鷲掴みにして、持った塩を投げる。
しかしそいつに当たる度、塩が黒く染まる。
なのでいつでも逃げれるように玄関へ行く。
さっきまで挑発していたのにこの様だ。情けない……。
ガサガサ
こちらに迫ってくるそいつ。
そして俺は思い出す──木刀を持っていたことを。
「うぉぉぉ!!」
懐中電灯をすて、そいつに向かう。
そいつも、飛びかかってくる。
ふと視界に何か映ったが気にしてはいられない。
バシン!
そいつの顔を木刀で殴るとそんな音がした。
ギィイュウイィヤ!
痛みによるものなのか、そんな声をあげ、倒れた。
ガツン!ガツン!ガツン!
俺はそいつが消えるまで、ずっと木刀で殴っていた。
やっと消えてようやく終わったと思えた。
時計を見ると午後8時10分。
10分しかたってなかったのか………
◇◇◇
木刀の先はボロボロだったが家から出ると元通りになっていた。不思議な事もあるんだと他人事のように感じた。
そして、祖父母の家に戻り、翌日神社に木刀を返した。
住職には、会えなかった為、お坊さんに渡し、帰った。
◇◇◇◇
それから2年。
俺は高校を無事卒業する時期に入った。
卒業式が間近に迫る、そんな時、祖父母の家に住職が来たらしい。俺に話があるそうで、冬休みを利用し祖父母の家にいった。
バスで向かう途中、これまでの事を振り返るとおかしな事に気づいた。
まず、俺の発言。
俺はオーブというものをここ最近知った。
つまり「赤いオーブは危険なもの」と言う言葉は出ない。
よくよく思い出すとそれは俺の声ではなかった。
俺の声ににていたが全く別の声だった。
そして、あの時──歪な存在を木刀で殴ろうと向かった時、二階に上がる階段の踊場で見たもの。
それは、4年前見た黒い人型と同じだった。
そう結論したとき、俺の中に靄がかかった気がした。
その後、住職と会い、お祓いをしてもらった。なんでも木刀を見た時、相当ヤバそうな雰囲気だった為慌てて俺を呼んだらしい。
それ以来、なにも起きることはなかった。
そう、言いたかった……。
でも無理そうだ。
だって
黒い靄が俺と同じ顔をして、腕を引っ張り、校舎の屋上から落とそうとしてるんだから──。
「赤いオーブは危険なもの、でも一番危険なのはお前自身」
そんな声が聞こえた。
サブタイトルの影灯浪とは、影灯籠をモジった物です。まぁ、わかる人は多いですよね……
走馬灯は本来の使い方では思い出すような感じのものではないと聞いたので、思い出すというような表現の影灯籠を使いました。
影灯浪の「浪」とはさまようという意味があるので、主人公が最後さまようように思い出すという意味だったり、作者が夢で見たものをさまよいながら思い出すというような意味で使いました。まぁ、言っちゃえば特に深い意味ないです…(笑)