食せ、弁当チート!
弁当。
それは僕が学校で最も楽しみにしている事柄の一つだ。
いつもお母さんが作ってくれた弁当は、四時限が終わって疲れきった僕に癒しをくれる。
だけど、だけど!
「弁当にアイスクリーム入れてくるとは思いもしなかった……!!」
「旨そうだな、欲しい」
「あげるけど」
「ごめんやっぱ無理」
それもそのはず、当のアイスクリームは初夏の直射日光の影響でドロドロに溶けきっていた。僕は昼頃の教室で、平日の真っ只中から声を荒らげる。
けど周りがうるさいから、千糸以外には全く気付かれない。
僕の弁当箱は二重式で、そんなに大きくはないんだけど……おかず、上段は普通だった。けれど下段は…………。
「まさかご飯入れるとこに抹茶アイス一面敷いてくるとは……やるな」
「何がやるなだよ!炭水化物なかったら……僕生きていけない!」
僕のお母さんは普通、普通だ。
ただ、どこかちょっとネジが飛んでるだけの、普通の立派な主婦の鑑のはず。
それが、僕とお父さんの、十年以上お母さんと過ごした経験からの評価だ。もっとも、尊敬の対象であることは変わらないけど…………。
「言っちゃ悪いけど……飛んでるな」
「心を読むな心を!事実かもだけど……!」
それに言い返せない僕は本当に弱虫だ。
しかし、否定できないのは本当のこと。それくらいお母さんは天然で翔んでたりもする。
「そういえば、大分前に「プールするー」とか言って庭にお金持ちとかの家によくあるあのジャグジー的なの付けてたな……」
「カネモですね、わかります」
「あれ以来「プール」はお父さんによって禁句だよ」
「今度行ってもいい?」
「もうちょい暑くなってからね」
ジャグジーが業者さんによって取り付けられている途中にお父さんが仕事から戻ってきて、口がぽかんと開いてたことは鮮明に覚えてるよ。まさにWhyの顔だった。
「ま、そう沈むなって。俺のやつ分けてやるから……」
「助かる」
「あ、もう全部食ってた」
「幻想クラッシュっっ!!」
や、やばい。
もう僕のお腹がエネルギーを求めてる。このままだと教室中に腹の音が響き渡りかねない。
なんとか出来れば…………うん?なんとか、出来れば……?
「なんとか出来る人いたーー!!」
「…………」
「なぁ、後ろ向いて誤魔化さないでよ」
「まったく、チート使いが荒いぜ…………」
「急にジョジョっぽくなるのやめよっか」
そんな訳で、千糸に何とかしてもらおう。
こいつのチートは万能だ。何でも出来るんだ…………。
え…………。
「な、なんか、すっごく僕、情けない…………」
「……やっと気づいた?本当に最近チート使い荒いからなー」
「え、まって、どゆこと」
「ま、詰まりだ。俺はちょっと前から神田に罪を自覚させようと、今まで一定のチートを制限してきた」
「え、と」
「本当ならもっとやれたけど、まさかここまで付け上がってしまうとは…………人間って、恐ろしい!」
「お前も人間だろ」
「それはそうとして、自覚出来たのは良かったよ……これからはチートを頼りすぎないこった」
「は、はあ」
でも、僕は見た。
「千糸……?なんで、「そこにいない」んだ?」
「え」
「今僕の前にいるの、千糸じゃない。高精度ホログラム」
「あ…………」
「チートを使った動機は?」
「やっとチート制限を抜け出せると思って、さっき、つい使っちゃいました」
「それだと前言ってたみたいに、中毒に陥るんじゃないんですか?」
「ぐぬぬ…………!」
「さっきの発言、どする?」
「………………撤回で」
そうだ。それだから僕の生活は面白いんだ。
千糸のチートで世界を見て、感じて、聞いて。
いつかはそのチートを険悪した時期もあったかな。
でも、やっぱり、もう抜け出せる気がしない。
__この、チートまみれの生活に。
グゥゥゥゥゥゥゥ。
「…………」
直後、教室中に僕の悲鳴が響き渡ったのは、言うまでもなかった。
「めでたしめでたし、と」
「お、おいっ!メタチート使うんじゃないって!」
珍しくお話が続きます。
多分。