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100点満点のモテチート

「千糸……なんでこんなことに」


「カラオケ行きたかったからな」


「そういう問題じゃなくて」


 僕と千糸はカラオケボックス店に来ていた。

 今は僕と千糸の二人だけ。これから誰かが来る予定もない。


 ここに来ようと誘ってくれたのは千糸だった。テストの憂さ晴らしか祝砲を挙げにかはわからないけど、打ち上げがしたかったらしい。


 ああ見えて千糸にはろくな友達が僕以外いないんだ。

 僕が言えたことでもないけど、あいつはチート使ってるからな、チート。


 普通、ここに来るってことは歌いに来ること。

 でも今回は違う。というか、状況がそもそもアレ。


「とある事情でな、昨日モテまくるチート使ったんだ。ここまではわかるよな、神田?」


「わかるから、さっさと言ってほしいかな」


「モテチート、自分で決めないと自由に発動したりしまったり出来ないんだわ」


「つまり」


「それやんの忘れてた」


「はいっきゅーしんきゅーしん!!」


 僕らはカウンターに一番近い部屋に居て、さっきまではきちんと本来の使い方をしていたはずだった。

 うん、普通に楽しかったよ、歌うのは。


 もうここに来て三時間ほどになる。

 だが、楽しく穏やかに流行りの曲を歌うっていうほんの細やかな願いは、千糸のドジによって砕かれた。


 人々の中には、楽しい時間をダイヤモンドに例える人もいるらしい。百万ドルの夜景、とかも似たような表現だけど、それは間違い。


 ダイヤモンドは砕けない、なんておかしい理論だよ。

 僕でも知ってるけど、ダイヤモンドって、ハンマーで叩くと割れるらしい。


 儚い時間は、まさにその通りに崩れ去った。

 この場合、そのハンマーは千糸自身である。というか、チートである。


「だからって店中の女の人が集まることぁねぇだろ!?!?」


「キャー!!千糸様ぁぁぁぁっ!!」


「へへへっ…………すまん」


「神は死んだ」


 僕と千糸は、部屋のドアに付いている小窓から外の様子を伺った。


 するとみるみる出てくる出てくる、女性の群。

 本当に目白押しだぞ、本当。

 何だか変な叫び声も聞こえるけど、無視したほうがいいかな。


 必死で僕らはドアの取っ手を抑え、部屋に女どもが入ってくることを死守していた。

 カラオケ店ではよくあるハンドル式のドアノブだけど、いつもはこんなことにはならないはずだ。


「店員さんも、こういうとこくらい配慮してくれたっていーのになっ!神田!」


「普通はこんなことにはならねぇーから配慮なんて欠片もねぇーんだよ察しろ!!」


「っていってもなー」


「なんか……!この人たち気絶させたりとか出来ないの!?」


「あ、できるわ」


「初めからやれチートがぁっ!!」


 千糸はその力を使うため、一旦取っ手から手を離す。

 すると、とんでもない圧力が僕の腕にかかってきた。


「え!?なんでこんな…………くっ!強いの……!?」


「さっきは俺が腕力チート使ってたからな」


「とっとと準備して!…………ってことはあの女の人たちは最初からこんな力を……!?」


「愛の力ってやつだな」


「チートの力だろ!」


「いや、愛の力もあるだろ。チートのせいだけど」


「恐ろしい以外の何物でもないよ…………!」


 いまさらだけど、店員さん以外にも普通のお客さん、そして明らかに外部の人間までもがドアを突破しようと取っ手に手をかけているところが小窓から見えた。


 憐れだ。

 ほんとーに、憐れで仕方がない。


「何回も味わったてるけどやっぱり絶大だわ、チート」


「だろ?」


「千糸お前さっきからちゃんと用意してんのか!?そろそろ腕が限界なんだから早くしろ!」


「いやー…………なんかそれだと面白くなくね?」


「……………………は?」


「歌うわ」


「……………………ひ?」


「歌声に落ち着かせる成分乗せる」


「……………………ふ?」


「採点機能もオンにして、と」


「……………………へ?」


「いざstageへ!」




「ほほほほほほほほほほほほ!?!?」



 *******


 その歌声、100点。


 その歌声、100点。



 その歌声…………


「120点~~~~」


「うざ」


 その歌声を放ち終えると、女性らはみるみる内に大人しくなり、やがて気絶した。

 どうやら本当にその気だったらしい。

 いや、そうじゃないと困る。


「ややこしいからこの辺の全員に記憶干渉チートかけとく」


「やっぱ万能だけどほんとやばい、チート」


「んー、実はもうかけてる」


「え?」


「いや、神田が本当に記憶干渉効かないか確かめた。やっぱ効かないわ。何でだ」


「謎だね。できれば今回も何事も無ければよかったんだけど」


 千糸の歌は、本当に上手かった。ただ、それしか言えない。


 とてつもないくらい上手く「か・け・き・く・け・こ・かこ!!」を歌い上げると、女性たちは最初こそ黄色い歓声を送った。

 だけどそれは長続きしないで、外からは「千糸様」の声がなくなった。同時に、ドアにかかってた圧力も消えた。


「ちなみに、点数は……?」


「さっきの聞かなかったことにしやがったな、神田。120点だっつの」


「いいな……僕なんか頑張って85だから…………」


「受け入れたな。それでいい」


「いらっ」


 いつも通りのやり取りを終えると、二人は急激に疲れてソファーにへたりこむ。

 柔らかな感触が顔と体に当たると、何だか一気に眠くなってきた。


 寝よう。


「なんでこんなとこ来たんだけっけ」


 僕はうつ伏せの体制のまま、デンモクで遊んでいる千糸に声をかけた。


「歌いたかったからだろ」


「真面目に?」


「単に打ち上げがしたかったです」


「なんで?」


「テスト終わったから」


「……ちなみに点数?」


「467」


「死ね」


 僕はそのまま眠りこけた。

 起きたら夜の8時になってて、その時も千糸はデンモクをいじり続けていた、ということは、話さなくてもいいかもしれない。

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