勉強チートは使わない
テスト勉強って、嫌だよね。
僕らは今、中学に入ってから初めてのテスト勉強に燃えていた。
もちろん、自分の家でね。
今回も家には千糸が居て、暇だから遊びに来たらしい。明日だけど、テスト。
「テストが何だって?」
一週間前、千糸はこんなことを言ってたかな。
あの時はマジでイラッときた。ましてや、この蒸し暑さ。一瞬我を忘れたけど、チートの効果で元通り。
だったらこの気候も変えて欲しい。
もう5月も中盤で、じめじめも本格的に日本列島を襲ってきた。ムシムシして、本当に辛いしキツイ。
なぜこの時期にテストをさせる、先生よ。
「で、ワーク終わった?」
「当然終わってないけど」
「もし俺がやってあげるって言ったら?」
「当然答えはNO.わかるだろ?」
「わかるよ?当然、誰にでも」
「イラッ…………自分でやらなきゃ身に付かないものもあるんだからな」
「そうか……いいな、神田は」
「……?どこが?」
珍しく僕を羨ましがる千糸に、僕は疑問の雫を落とした。静かな僕の部屋に、その音が波となって広がっていった。
「俺は元々偉く点数が良いってわけじゃなかったんだ。でも、俺はチートでいい点が簡単に取れる」
「うん」
「けどな、それで気分がいいってわけでもねぇんだ」
「?」
「なんか、一回使ったら止まらねぇんだよ、俺のチート」
「……中毒、か」
「そんなもん。ある程度自制は出来るけど、停止はしてくれない」
「そっか……」
「だから、テストにはチート使わねぇって決めてるんだ。ここで使ったら、俺にも止められねぇ優越感に襲われて、もう、戻ってこれなくなる」
「…………」
「それが、チートの利点で、チートの恐ろしさなんだよ」
今まで、僕は様々なチートを目にしてきた。
テレパシーだったり、召喚だったり、夢……だったり。
「だから、テストは自分の力でやるって、俺決めてんだよ。もう俺はワーク終わったし、もう勉強も済ませた」
「す、すげぇ……僕でもまだ終わってないのに」
「言ってみれば、俺がチートの代わりだよ」
その全部全部が、千糸の気まぐれと暇潰しによるものだ。その一つ一つを、僕が経験していっている。
千糸は言ってた。チートを認識出来てるのは僕だけだって。そんな僕だけに、そんな危険なチートを使って。
「千糸……お前、何考えてんだよ」
「世界平和だけど?」
「…………」
いつになったら千糸の本質に迫れるんだろう。
「ワーク終わった?」
「あと二ページ」
「頑張れよ。ほらよっと」
「やけに眠気取れたし、なんか気合いも入ったな……だいたいなんでかわかった」
「へへっ……頑張れよ?俺も頑張る」
「ああ……頑張る」
チートって、全部が全部チートじゃないのかな。