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死なない小鳥さんは心もチート

 今日の授業も終わって、僕らはいつもの通学路を歩いていた。背中には鞄の持ち手を背負い、手には傘。

 天気としては曇りで、今にも雨が降りだしそうだ。もう、梅雨の季節なのかな。


「で、なんで千糸はそんなに口笛吹いてんの?」


 素朴な疑問だけど、帰り道はだいたい暇。聞いてみたほうが面白いかも……というか、千糸に聞けば、だいたいは面白い返答をしてくれる。

 今回もそれが狙い。


「ちょっとばかりデカイ召喚を始めようかと思ってな」


「なんの」


「小鳥の」


「へぇ」


 素朴な疑問はたったそれだけで解決して、また暇な歩き道中に戻る。

 千糸はピイピイと口を鳴らして、鳥を集めている途中らしい。片目をつむって、手を頭の後ろに組んで、その見惚れそうな目で空の彼方を見やる。


 実際、千糸の元には沢山の小鳥が集まっていた。

 雀やオウムなどはもちろん、クジャク、不死鳥までよってくるのは流石千糸だといったところだろうか。


 不死鳥が現れた辺りで、空は輝き、黒い雲は消え去った。さらに汚い空気も浄化されたみたいだ。おいおい、めっちゃ便利だな。

 僕の家にも一羽欲しい。


 不死鳥なんて初めて見たけど、やっぱりイメージ通り。

 翼に炎が燃えていて、虹色の鶏冠を被っていた。そして、今まで聞いたことないくらいの美しい鳴き声。


 耳が、熔けちゃいそう__。


「うーん」


 ここまでのことを下校途中にやってのけたのに、まだ千糸は不満そうだ。

 僕からすれば、もう十分にこの現象を体験したし、これ以上周りの人に見られたくなかった。


「よし、バトルだ」


「なんでだよ」


「暇だろ」


「確かに」


 そんなこんなでバトルロイヤルが開催されることに決定した。千糸の暇潰しは、もはや神の領域にある。

 もう、慣れた。慣れたんだ。


 今回の選手は、千糸が呼び出した不死鳥フェニックスと……。


「神田、いけ!」


「なんでだよ!?千糸がなんか呼び出せば済む話じゃんか!」


「暇だから、そんなんじゃ面白くないんだよ」


「確かに」


 そんなこんなで、僕はフェニックスさんと戦うことになった。

 千糸が機転を利かせて、周りには見えないように結界を張ってくれたらしい。いつの間にか視線がほとんど消えていた。


 それにしても、近くにいるだけでこのプレッシャーはやばい。

 それは果たして、元ネタからくるものなのか、それとも千糸の暇潰し精神によるためだろうか。


「なんだよ、この暑さ……」


 そしてこの熱気もやばい。さっきの耳じゃないけど、本当に体が溶けてしまいそうなくらい暑い。

 多分、あの燃えさかっているあの羽からくるものだろう。


「さ、準備は整った。ルールを説明する」


「はい」


「神田の家に着くまでに、どちらが先に相手をぶっ潰すか」


「えぇ…………」


「スタートの合図と同時に選手は神田の家まで向かい続ける。なお、スタートから二十分以内に家に到着しない場合はどちらともに罰を与える」


「嫌だぁ!死にたくないぃ!」


「神田にはハンデとして、フェニックスさんは開始から5分、その場を動かさせないこととする」


「ハンデが足りない気が……」


「なお、勝った者には俺のチートを一種類だけ使わせない権利一年分を進呈する」


「やりましょう」


 僕は決意を固めると、フェニックスさんを見上げてみた。

 うん、やっぱりデカイ。ビルの3階までは届きそうな勢いだから、臆病な人が見たら記憶障害でも起こしそう。

 実際それ以前に記憶の干渉は受けているはずだけども。


 にしても、千糸は門限とかは大丈夫なのかな。もう夕日が沈みかけて、近くの古い民家からカレーの匂いもしてくる時間だけど。


「だいじょぶ。俺ん家には門限ないし」


「心を読むな心を」


 全く、本当にわからない。こいつは一体何者なんだ……。


「人間だけど?」


「知ってるけど!?」


 疲れた。

 ああ、もう吹っ切れた。やってやんよ!こんな下らないゲーム、さっさと終わらせてやらぁ!


「ですよね、フェニックスさん」


「ええ、そうですね」



「なあ千糸助けてくれフェニックスさんが喋ってきたし心も読んできたぁ」


「もちろん俺のせいだよ、わかるだろ?」


「知ってたけど認めたくなかったんだよくそがっ!」


「まあまあ、喧嘩はよしなさい」


 そう言ってフェニックスさんは場を沈めようとまでする。

 ちょっと色々突っ込ませてほしいんだが。


「フェニックスさん、性別は?」


「ありません。なにせ不死鳥なので」


「この状況をどう思ってます?」


「このような機会を頂けて、本当に光栄に思っております」


「名前とかあります?」


「名乗るような名前はありません。フェニックスでいいですよ」





「なあ千糸助けてくれフェニックスさんがめちゃめちゃ紳士的で戦うに戦えないしこんな人をぶっ潰すなんてことできないしぃ」


「全部俺のせいだ」


「認めたくなかったんだよわかるかこの気持ち」


「わかんねぇな。神田のプライドなんて」


「プライドじゃないからぶっ潰すぞ」


「ほう、神田が俺をぶっ潰すと?」


「無理ですごめんなさいすいませんしたぁぁぁぁ!!」


 もう、こうなったら本当にフェニックスさんと戦うしかなくなった。こんな人をぶっ潰すなんて……できない。


「……神田さん、いいのです。私を倒してください」


「フェ、フェニックスさん!」


「…………」


 千糸は黙ったままだけど、僕はフェニックスさんの言葉に驚いた。

 こんなにも自らの恥を晒して、自らを犠牲にして、僕の良心を、救おうと__。


「フェニックスさん…………!」


「いいのです、いいのですよ。さあ……」





「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「短い間ですけど、お話できて、楽しかった____」





 パンッ!


 フェニックスさんが、光って、消えた。




「なあ、千糸。なんで僕の拳がフェニックスさんに当たってないのにフェニックスさんが消滅したの?」


「家に着いたからに決まってんだろ」


「あ……」


 僕らは今までずっと歩き続けながらこんな話をしていたらしい。

 もう日は沈んで暗くなり始めてるし、カレー以外のご飯の匂いもし始めた。


「…………心配するなって。記憶もそのままに、また今度呼び出してやっからよ」


「今呼び出せぇい!」


「もう暗いから、怒られんのは神田だろ?さ、いったいった」


「ぐっ…………」


「……だーかーら、心配すんな。まったく、神田は心配性なこった…………ほらよ」


「……?」


 千糸が投げてきた、そのスーパーボール位の物を見ると。


「フェニックスさんの、ミニチュアフィギュア…………」


「これでも握って寝てろ。なくすなよ、約束だからな!」


「…………」


 まったく、本当に、本当にわからないやつだ。


 千糸ってやつは。

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