1日の始まりはチートから
僕の朝は、僕の家、自分の部屋から始まるんだ。
当然と言えば当然。普通と言えば普通の事なんだけど、僕の朝は他の人とは一味違う。
うーん、一味どころじゃないかも。うん、やっぱり、一味も、二味も違うはずだ。
今日の朝は、なかなか起きる気がしなかった。
僕は今自分のベッドにいて、空はぼんやり明るくなり始めていた。窓から差し込む春の気持ちいい風になぞられて、僕はずっと眠っていられそうな気がした。
そう言えば、昨日の夜窓開けたっけ。
ちらっと時計を確認すると、針は5時半を指していた。よし、寝よう。
そう思って、僕は久しぶりの二度寝をしたんだ。そこまではいいんだ。よく聞いてほしい。
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僕は夢を見た。
それはそれは、綺麗な景色が広がる、幻想的な空間に僕はいた。吸い込まれそうなその驚異的な気持ちよさは、まるでさっきの春風みたいに僕を甘やかす。
ああ、最高__。
と、そこに誰かが現れた。
こんな白い空間に、ただ、立ち尽くして…………誰だ?
ん?あれ、この影、見たことあるシルエットだな。
それに、なんかどんどん近づいてくるんすけど、なにこれ怖い。
「あ、あのー…………」
僕は勇気を出してそいつに話しかけてみた。
でも、反応はない。なんだよ、喋れよ。でないと僕が寂しい。せっかくこんな場に居合わせたんだし、なんか言えよ。
…………喋らん。おーい、聞いてるかー?その耳、聞こえてるかー?いい精神科紹介するよー?
「神田……………………」
あ、やっと喋った。僕の苗字……だけど、お前誰だよ。
見たことあるけど、確信が無いから、さっさと名乗ってほしいんだけども。
「俺…………お前が好きだ!付き合ってくれ!!」
「………………………………!?」
口元が見えた。とんでもないこと言ってくれたな、お前。口調からして男だろう。もう、勘弁してくれ……。
「なっ?神田」
でも、見えたのはそれだけじゃなかった。
完全オカマの化粧。分厚い口紅。アレな衣装。ここだけでも最悪だよ。でも、もっと酷いのは……。
「千糸…………お前、お前ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
それを言ってしまった顔が、僕の友達のものだったことだ。気持ち悪い!くそ、朝からなんてもん見せやがるんだ!くそ、くそぉぉぉ!!
お前はいっつもいっつも!こんな、こんなことをぉぉぉぉ!!
「ウフっ」
「おえッ」
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僕は目を覚ました。
ここは…………僕の、部屋。良かった。良かったぁぁぁ。窓からはさっきと同じ、心地よい春風が流れ込み、僕の心を落ち着け、癒して回った。おかげで、寝覚めの悪さも少しは晴れた。
時計に目をやると、6時23分だった。よし、起きよう。
僕はそう思い、ベッドから出ようと試みた。しかし。
「あ、あれ?……でれ、ない?」
僕の体は何かにぐるぐる巻きにされたように、指一本動きはしない。
金縛りか?こんな時に、こんな朝に。いったい、どうして…………。
本当はわかっていた。わかっていても、何か認めたくなかったんだ。この金縛りは、きっと…………。
『おはよ。勘がいいね』
「脳内に、直接…………!?やっぱり、君?……千糸」
『当たり。金縛りは今解くから』
この一連の出来事は、全て千糸のせいだ。
なにせ、こいつはチートなんだ。僕も何ヵ月か前から知ってたけど、最近では何かおかしな事があるとだいたい千糸のせい、ってことにしてる。
それくらい、こいつは何でも出来る。またその一つを味わってしまったけれど、今度はテレパシーか。
『な、どうだった?』
「……どうって、なにがさ」
『神田、夢見たろ?起きそうな夢見せるチート使った』
「知ってた」
そんなやつだ。
『そんで、お返事はぁ?』
「………………」
『返事ぃ?』
「…………二度としないと誓えぇぇぇぇぇい!!」
『はい、誓います』
「よろしい」
そんなやつなんだよ、ほんと。
『冷たくすんなよー。学校いこーぜ!』
「君のせいで今起きたばっかりなんだよ。もうちょいゆっくりさせて……」
『……んっ』
「………………!!!学校行きたいーー!!うーーわたぁーのしぃーーー!!!!」
『よし、決まりだな』
不思議と、体が逆らえないんだ。意識はあるっちゃあるんだけど、行動に移せないことがいっぱいあって……。
今は、勝手に体が動いちゃってる状態。それに加えて、学校に行きたい、という感情がプラスされてる。僕はもう慣れ始めてるから、少しだけコントロールは出来るけど、あいつもその気になれば僕の自我なんて消し去ってしまえるだろう。
ほんと謎。千糸は何考えてるんだか。
『どするー?行く気になったか?』
「……行く!行くからチートやめろ!」
『ふいふいっと』
…………あぁ、疲れた。いつもはこんなことしないんだけどな。それにしても、千糸はなんでチート使えるようになったんだろう。
ほんの数ヵ月前は、僕の生活はこんなのじゃなかったのに。