時間差チート、発動
「神田すまん、時間差チートが発動した」
「なにそれ」
「今、何年何月何日かわかる?」
「え、2017年8月23日でしょ?」
「2018年4月20日なんだよ。俺ら、中二になったんだ」
「う そ つ け」
「更新される予定だった『僕とチートの日常生活』のお話が全て『常闇の地底列車』の餌食になった。そして書く余裕が消え失せた。さらにその『地底列車』が休業中――」
「てなことで、つまり……」
「おう、チート生活、ちょくちょく再開するぜ!」
「遅いわボケェッ――!!」
◇◆◇◆◇
やあ、みんな。久しぶりだね。
僕は神田、横にいる季石千糸の友達。
色々千糸の世界であったらしくて、僕もようやく顔を出すことができたんだけど、やっぱり相変わらずどうしても、千糸のチートは発動中。
「でさ、千糸。何で前回の話がなかったことになってんの? 僕、ちゃんと抗えたの?」
「……さあ、どうだろうな。そ、そんなこと気にせずに……ほら、フェニックスさんと話でもしてろよ」
「なに話ずらしてるの? 僕、やっとヒロイン登場かって期待したんだよ? シャリシャリくん食べたかったんだよ? あと貰った一万円が灰になって崩れ落ちたんですけど」
僕はさらさらの灰となってしまった諭吉くんを指さし、千糸を嫌味ったらしく睨む。
やがて爽やかな春風に飛ばされた一万円札は、呼び出されていたフェニックスさんに向かって跳び跳ね――。
「おや、灰が。……ほら、ハワイの砂浜に落ちてる砂にしてあげましたよ」
「有り難いようで全く有り難くないんだけど」
「一個一個うるせぇな。わかるか? それもこれも全部俺のおかげなんだぞ?」
「全部お前のせいなんだよォ――ッ!」
下校中の通学路、僕と千糸はまさに下校の真っ最中だ。
第二学年へと進級し、僕も千糸も、洗練された気持ちで穏やかに、普通に、平和に生活していた。
新年度でも懲りずにこいつと同じクラスになったのは、何かの偶然と思いたい――思いたかった。
「もちろんそんな平和な日常生活がおくれるはずもなかったとさ、めでたしーめでたしー」
「素晴らしいくらいにくそったれだよこのチート野郎!」
――もちろんそんな『平和』に、『穏やか』に、『普通』に日常生活をおくることなんてできるわけもなく。
僕は進級してなお、こいつのチートワールドに嵌まったままだ。未だに『気付いている』のは僕だけのようで、本人も太鼓判を押している。いい加減に精神が疲れてきた。
「だからと言って無理矢理告発しようとしても、記憶改ざんチートで元通りだし……千糸絶対生まれてくる時代と役割間違えたよね」
「何言ってんだよ。まだ人でよかっただろ? 例えばそう、俺みたいなチートを猿かチンパンジーが自由に使えるようになってみろ。世界滅亡、いや、宇宙滅亡待ったなしだな」
「恐怖でしかないからほんとやめて」
千糸は手を軽く振ってフェニックスさんを消すと、指で丸を書いてハンバーガーを出現させ口に咥えた。ついでにパチッと指を鳴らせば――、
「ほら、それがこいつ」
「世界の終わり」
「――危なかったなー! やっぱ人でよかったろ?」
「ありがとぉ! ありがとうございますぅ!!」
そんなこんなで、僕はまだまだ、チートから逃れることはできないらしい。
嫌だよ、もう、ほんと、やめて。
「だが断る」
「心を読むなネタをパクるな!」
ただ、アスファルトを転がるハワイの砂だけが、摩訶不思議な世界に溶け込んできた僕を歓迎しているような気がした。