斜め上ボウリング場チート
「ボウリング場に来たはいいけども…………」
「あれ、なんかデジャブ」
例の如くテスト前のあの、何とも言えない焦燥感とイライラに身を焦がした僕たち──千糸と僕は、流れる足に任せるままここへと辿り着いた。
何でだろう、僕ら、本当にテストテスト嫌いなんだな。
つくづくそう思わされる。
だって前からテストある度々にカラオケに行ったし、二人で勉強もしたし、多分これからもこんな感じになるし。
あー、テストなんて嫌だ嫌だ。
勉強死んでください。
ぜひとも死んでください。
アインシュなんとかも、ダビンなんたらも、エジソほにゃららも糞喰らえ。
「で? どうせチートが何かしたんだろ? わかってるよ僕は。もうそれなりに長い付き合いなんだしさ」
「…………」
「……なんとか言ったら? 図星突かれてイライラに磨きでもかかってんの?」
「──二つの意味で」
「ん? 二つって…………チートが何かしたってことと、イライラに研磨かかってるってこと?」
「──その、通りだ」
「いちいち溜めんなチートがっっ!!」
僕もイライラしていたのかもしれない。
自然と怒りの矛先がたった一人目の前にいる千糸に向けられた。
まだまだぶつけてもぶつけたりない気もするが、仕方なく千糸の言い分に耳を傾ける用意はできた。
「今回の案件は? ボールに滑走チートでもかけて、店の営業妨害? それとも設備自体を改変チートして、営業妨害? どっちにしろ警察に突き出す用意も万端だよ」
「俺ってそんな営業妨害好きじゃないって! そもそも、さっきから神田は一緒にいたろ!? いや嫌いでもないけども!」
「ほう……?」
「お願いしますだから携帯で110押さないで下さい」
僕はわざとらしく舌打ちをすると、携帯をポケットに突っ込んで千糸を今度こそは見下した。
最近はいつになく疲れが溜まっているのだ。
もちろんそれを解消するためにここに来たのは、千糸もわかっているはず。
でも、もう普通に長い付き合い。
なんとなくオチは読めた。
「……俺、少しでも神田に喜んでほしいなって思って」
「はい」
「だから、創造チート使ってジュースとか、タオルとか、安眠グッズとか、今はまだ合法の薬とか創ったりしてたんだ」
「労りは感謝するけど、どうせそんなんで収まらないでしょ」
「よくわかってるじゃねーか」
「──消すよ?」
「やれるもんならって言ってやりたいけども…………まあ、そうしてた訳よ」
「うん」
「そんときはジュース作ってたんだ。確かブドウジュースだったはず。果汁百パーセントを目指して、俺、頑張ってたんだ」
「へい」
「そいつが、何と…………!!」
「……ごくり」
「ボウリングの機械に入って故障起こした」
「死ねやお前」
「更に…………!!」
「え、待って、まだなんかあんの?」
「その機械から紫の煙が延々と立ち上っております、おそらくジュースに混ぜた色素が原因かと」
「ど阿呆」
「更に更に…………!!」
「…………」
「それがボウリング場中に蔓延して、会場大パニック中」
「なめとんか」
その瞬間、僕の目の前に異常な風景が突きつけられた。
多分千糸の幻想チートかなんかで誤魔化してたんだろう。
もう、何も言葉が出ないよ。
逃げ惑う人々に、対応に焦る店員。まだ僕らの機械が原因だとはばれてないっぽいけど。
──ちょっと、斜め上すぎん? なんなん、これ。
僕は、それなりに長い時間千糸と過ごしてきた自信がある。
彼が何か問題を起こす度、また彼が何とかしてきた。
僕はそれをただ、眺めていただけだったのかもしれない。「僕自身」が何かしたことなんてなかったのかもしれない。
どうすればと葛藤する僕の傍には超元凶の千糸。
やっちまったぜじゃないよ。
もっとさ、僕の苦労もわかって。
これからどうやってあいつを締めるか考えてたら、ほのかに香るブドウの匂いがした。
どうやら、果汁百パーセントは伊達じゃなかったらしいよ。