チーレム勇者の育て方
その1 「チーレム勇者の作り方」
異世界転生・召喚させる相手によって方法は千差万別だ。
「あなたの肉体は死んでしまいました`」
僕の目の前には一人の少年。十五年生きたか生きてないか、くらいの年齢か。
容姿は彼が元いた世界の平均以下。
自分から積極的に他人と関係を持とうとしないくせに、人一倍他者からの評価を求めているような奴。そのくせ承認欲求を満たすための努力をしていない、間違った方向に行っている奴。
そんなどこにでもいるような少年だ。
今回、僕は絶世の美女の化身をとっている。若干、彼の趣味からはアウトコースだ。容姿に食いつかれて話が長くなるのも困るんだよね。
「ですが本来あなたはいまだ死ぬ運命になかったようです。そこで元いた世界に戻して差し上げることはできませんが――」
『おい』と少年からツッコミが入る。うっせえな。人の話を邪魔するんじゃねえ。
「私の世界――あなたにとっては異世界になりますが、そこでならばあなたの人生をやり直させてあげることができます。もちろんこちらの落ち度でしたので、何か特別な能力をつけて差し上げることも可能です」
できるだけ厳かかつ優しげな声で余りにも胡散臭いことを問いかける。
少年の思考を読むと『テンプレテンプレ』と喜んでいるようだ。僕もテンプレ通りうまくいって喜ぶ。
さあ――交渉のターンだ!
『イケメンにしてくれ』はいはい。定義は時代によってまちまちだが、ここは女顔の中性的な容姿にしておこう。
『無双できるくらい強くしてくれ』よござんすよござんす。レベル99にしておきましょう。
『魔法も使えるようにしてくれ』なるほどなるほど。異世界物の目玉でやんす。蘇生魔法以外なら使えるようにしてやんよ。
『あ、だけど目立ちたくはないな』ならば他人からはレベル1にしか見えないなんていかが?
そんな感じでキャラメイクという名の改造を繰り返した結果、どこに出しても恥ずかしくないような『勇者様』が出来上がった。
んー。毎度毎度似たり寄ったりで愛着がいまいちわかないなー。
おっと。重要な仕込みをしておかなければ。
無意識に微弱な催眠電波(仮)を垂れ流すようにしてやろう。催眠電波じゃいけなければエロ光線だ。
これによって他人からの好感度は倍率ドン! 『治癒』や『ナデナデ』『笑顔』でドンドン!!
他人のほんの少しの敵意を増幅して、君を襲わせることだってできる!
さらに敵を殴れば精神防御を突破して、SEKKYOUだってできちゃうスグレモノ!!
お値段プライスレスとなっておりまーす。
さて細工は流流仕上げはとくと御覧じろ。
「それではあなたの行く末に幸多からんことを――」
そういって祈りを捧げてやると邪心のない笑顔を浮かべる量産型勇者様。
『異世界チートでラッキー』なんて思いながら心から笑っているね。
だがあんまり他者を無条件に信じちゃいけないぜ? それは単なる怠慢か甘えだ。
僕も出だしがうまくいったことを確信して心からの笑みを彼にかけてやった。
その2 「チーレム勇者の育て方」
転移場所には毎度気を遣う。転移先が火山の火口や砂漠のど真ん中ってのは素人だ。楽しいは楽しいが刹那で終わってしまう。
異世界感あふれる大自然の中がいい。ロケーションも大事だ。町に近いとか。景色がいいとか。
暴風雨が吹き荒れる闇夜に放り出していきなり異世界に失望されても困るだろう? だから僕は基本的には青い空・白い雲・そして大草原が堪能できる、町にほど近い街道の上に転移させている。
その転移させた草原で『多重大紅蓮陣』とか『真・滅魔嵐雷撃』とかブツブツ言って魔法を使う勇者様。
これは……次回の課題だな。一回や二回は笑えるが、これを何度も聞かされると……その何だ。困る。
というより役者さんが待ってるんで早く動いてくれないかなー。その先で第一ヒロイン候補の領主の娘がモンスターに今まさに襲われようとしてますよー? 急がないと……あーあ可哀想に。かわいい顔が滅茶苦茶だ。
今更スペアを用意するのも面倒なので、風向きを変えて血の匂いを勇者様のもとへ届けてやる。
鼻をひくつかせ周囲を確認する彼。そしてすごいスピードで走り出した。さすがはレベル99。まさに風の如しってやつだ。
そうこうしてヒロインが絶命する一歩手前で間に合った勇者様。ヒロインが絶命する一歩手前で間に合わせた僕。
どちらも有能だねえ(笑)。
その最初から最強! というアドバンテージを駆使してモンスターを追い払った勇者様。その強さ……楽しんでもらえて嬉しいよ。
システムメッセージ
【チーレム実績:『無双 その1』が解除されました】
そして死にかけているヒロインに回復魔法をかける勇者様。やさしいね!
血みどろだった彼女は瞬く間に回復し、そのかわいい顔も襲われる前と変わりない。やがて目を覚ました彼女は、モンスターから救ってもらった恩・傷をいやしてもらった恩・脳を揺さぶる催眠電波の三連コンボによってあっという間に恋に落ちるのであった。
システムメッセージ
【チーレム実績:『なぜかホレるヒロイン』が解除されました】
【チーレム実績:『治癒ポ』が解除されました】
そして彼女――『領主娘』でいいや――に案内されて町へと向かう勇者様。
領主娘に連れられて向かった先は、僕がこの日のために用意しておいた冒険者ギルド。彼女、なかなか僕の思い通りに動いてくれるじゃないか。
まあ遅かれ早かれ金を稼ぐ手段、として冒険者ギルドに行こうとするんだろうが、ここは住所不定の不審者をホイホイと迎え入れるような組織じゃない。だからこそ、領主の娘の恩人というバックボーンが欲しかったんだ。さすがに領主一族の紹介を門前払いするようなことはこの町の冒険者ギルドにはできないしね。
と、まあギルドの建物内に入ったはいいんだが……敵意の視線が刺さる刺さる。まあ勇者様は『よそ者』だ。この小さな町では異物にしか過ぎないんだよね。
というわけでここでも催眠電波の出番だ。
敵意を刺激された一人の若者が立ち上がり――
「てめえ……見ねぇ顔だな……」
サイッコー!! 抜群のカマセ台詞を勇者様にかけてくれた。それに対して『何か用か』とフンと鼻で笑いながら返す我らが勇者様。いいね! 煽ってるね!!
『この野郎』と激昂して彼に決闘を申し込んだカマセだが、あっという間にのされてしまった。……一応レベル40台で英雄クラスだったんだがなー。
システムメッセージ
【チーレム実績:『カマセ退治』が解除されました】
その様子を固唾をのんで見守っていた人々は――『うおおお! あの斬鉄のキールをああもあっさりと――』彼を褒めたたえ、祀り上げる。もちろん催眠電波だ。
キール君……カマセも口を拭いながらヨロヨロと立ち上がり、『お前の一発……効いたぜ。やるじゃねえか』なんて言っている。もちろん(以下略)。
それに対して『お前もな』とか返す勇者様。それイヤミ? だけどカマセ君はきにしてないみたい。それも(以下略)。
町一番のカマセ……じゃなかった冒険者をのした彼はその日のうちに一級冒険者となった。
システムメッセージ
【チーレム実績:『みんなから大絶賛』が解除されました】
【チーレム実績:『カマセとの友情』が解除されました】
【チーレム実績:『いきなりの成り上がり』が解除されました】
その3 「チーレム勇者の壊し方」
システムメッセージ
【チーレム実績:『撫でポ』が解除されました】
【チーレム実績:『ハーレム』が解除されました】
【チーレム実績:『奴隷購入』が解除されました】
【チーレム実績:『笑顔ポ』が解除されました】
【チーレム実績:『第三夫人』が解除されました】
【チーレム実績:『爵位授与』が解除されました】
【チーレム実績:『暖かい我が家』が解除されました】
【チーレム実績:『王族と懇意』が解除されました】
【チーレム実績:『国の英雄』が解除されました】
そんなこんなで。彼は王道の成り上がり街道を邁進している。
悪党(勇者様にとっては)は殺さず、社会的に死ぬよりひどい目に遭わせたり。彼の女に色目を使った男を死んだほうがマシなレベルに半殺しにしてみたり。
『目立ちたくないんだがな』と言いながら国を救って英雄となってみたり。そんな彼に異を唱えた貴族様がなぜか没落して一族郎党いなくなったり。その没落貴族の一粒種の女の子をハーレムに入れてみたり。貴族の後釜に居座ったり。
まあ波乱万丈の時代だ。何が起きてもおかしくないね!!
お姫様とのラブロマンスを楽しみ、いきなり崩御した国王の跡を継ぐ。
国王崩御を好機とみて襲い掛かってきた敵国を単身突撃withハーレムで撃退し。
そのたびに催眠電波は彼の周囲から彼の住む町へ。彼の住む町から彼の住む国へ。彼の住む国から彼の住む世界へ。少しずつ広がっていき、この世界は彼を称える者だけとなった。
彼に反感を覚えれば待っているのは破滅。勇者様の怒りに触れて直接殺されるか、周囲の怒りに触れて社会的に殺され、私刑によって袋叩きにされるか。
彼の治める国には犯罪はない。偉大で優秀な勇者様が犯罪者が出るような失策をなさるはずがない。
彼の治める国に悲しみはない。偉大で優秀な勇者様が守ってくださるのだ。国民はいつも幸せだ。
ここはまさに理想郷だ。
さて『勇者様』?
君は僕の異世界召喚を楽しんでくれているかい?