最終話 キツネツキ!
「ああああああああ!」
頭を抱え、泣き叫んでる狐子の目の前で、ドアが無常に開く。
”さよなら……私の青春……さよなら、私の恋心……”
混乱した狐子が、混乱した思考で意味不明な脳内世界を展開していると、
「あらぁ?おキツネ様が揃って変態行為してたのね?
もう、お茶目さんなんだからぁ」
と聞き覚えの有る声が響く。
「え?」
涙と鼻水をダーっと流した狐子が恐る恐る頭を上げると、
そこには狼子がニコニコしながら立っていた。
「げ」
智狐が心底嫌そうに顔を歪めながら呻くのを聞いた狼子が
「なあに?こっちの狐ちゃんはここで大声出してほしいのかしら?」
と色っぽい流し目を送りながらふふん、と鼻で笑った。
「狼子先輩……?」
狐子は入ってきたのが狼子だったことに心から安堵しながら、
しかしキャンパスで見る狼子とは明らかに異なるその雰囲気に一瞬ぞくっとする。
「ね〜智狐ちゃあん?あなた私を舐めてるんでしょ?」
ひくりと引き攣っている智狐のあごをひょいと摘み、狼子が色っぽく囁く。
「あれ?あはは、狼子先輩、もしかして酔っ払っていらっしゃいません?」
あっという間に真っ青になった智狐が恐る恐る、といった感じで尋ねると、
「そうよ〜?飲んでちゃいけないのかしら〜?」
とにっこりと微笑みながら、狼子が智子のほっぺをみょーんと左右に引っ張り始めた。
「いひゃいいひゃい!しぇんはいいひゃいっしゅ!」
半泣きになった智子が叫びながら、狐子に助けを求める様に涙を溢れさせた瞳を向けるが、
狐子も青白いオーラすら醸し出している狼子の様子にビビッてしまい声も出せない。
「ふふふ〜ん、悪い子にはお仕置きしなきゃね〜♪
さあ、いらっしゃい!ガンガン飲むわよ〜?」
狼子はささっと素早く散乱していた服を智狐に着せ、耳を引っ張って連行していく。
「ほら、狐子ちゃんもいらっしゃあい?私のお酒が飲めないなんて言わないわよねぇ?」
ゴゴゴゴゴゴ、と言う擬音すら聞こえて来そうな様子で振り向く狼子に、
「ひゃ、ひゃい!頂きますっ!」
と答えながら大急ぎで服を着て、智狐を引き摺る狼子の後に続く。
「よ〜し、お姉さん今日は奢っちゃう!」
調子良く気勢を上げながら歩く狼子に付いて行きながら、
狐子が何か忘れていた様な気がしてふと考え込んだ瞬間、
「きゃーーーー!チカンよぉーーーー!!」
と、トイレの方から女性の悲鳴が上がった。
「あ。彼、置き去りにしちゃった」
耳を引っ張られながら連行されている智子と狐子は目を合わせながら思い出したが、
今更どうしようもない。
わあわあと大騒ぎになるトイレ方面に向かって手を合わせながら、
二人は狼子のテーブルに無理矢理座らされ、酒をガンガン飲まされ始めた。
翌朝、猛烈な頭痛と吐き気で目覚めた狐子がトイレに行こうと体を起こすと、
下着姿のままウンウンと唸っている智狐がフローリングの上にぽとっと落ちているのを発見する。
昨夜はあの後、狼子に付き合わされて朝方まで飲み歩いていた様だが、
最後にカウンターバーで時計を見た時に午前二時だった以降の記憶が無い。
「ううう……どうやって部屋に帰って来たのかしら?」
床の上で唸っている智狐をむぎゅっと踏んづけながらトイレに行き、
しゃがみ込んだまましばらくゲロゲロと吐き続ける狐子。
「こんなの、もう二度とゴメンだわ」
ようやく吐き終わり、口をしっかりゆすいでからトイレを出ると
そこにはフローリングの上に寝ゲロをぶちまけた智狐の悲惨な姿を発見した。
「ちょ!ちょっと智狐うげええええええ!」
瞬時にもらいゲロモードに移行した狐子の口からも再びリバースが始まり、
普段はキチンとキレイに整頓されている狐子の部屋に阿鼻叫喚の地獄絵図が出現してしまった。
一週間後
「おっはよー狐子ちゃん!」
すっかり元気を取り戻した智狐が朝っぱらから高テンションで智狐に声を掛けて来る。
「……うはよー」
対照的に、狐子は思いっ切りローテンションで挨拶を返す。
三歩歩けば全てを忘れる能天気な智狐と違い、
狐子は体力的にもだが、何よりも精神的なダメージが深く完全回復には至っていない。
「何よう、まだ引き摺ってるの?そういう時は合コンよ合コン!
今夜、カッコ良い男の子がいっぱい来るコンパが有るんだけど、狐子ちゃんも来るよね?」
顔に傍線を数本引いたまま智狐の声を聞き流していた狐子が、
「冗談じゃないわよっ!先週の惨劇を忘れたの?もうしばらく合コンなんてごめんだわ!」
と、凄まじい勢いで智狐に喰って掛かった。
「え〜?だってあれは、クソ狼が乱入して来たからあんな悲惨な事になったんで、
別に私も合コンも悪くなんてないじゃなーい?」
小さな拳をあごの下に付け、ふるふると顔を振りながら可愛狐ぶる智狐を見て、
ビクっと青筋を立てながら狐子が叫ぶ。
「アホかぁっ!とにかく行かないんだから!」
ぷいっとそっぽを向いてスタスタと歩き出す狐子だったが、智狐はしつこく追い縋る。
「ねーねー、今夜はクソ狼とバッティングする様な場所じゃないから大丈夫よ!ね?」
「あらぁ、クソ狼って誰のことかしら?」
その時、二人の後ろから穏やかな、しかし地獄の底から響いて来る様な声が掛かった。
「あ!狼子先輩!」
狐子がぱあっと微笑みながら振り返ると、乾いた笑いを張り付かせたままの智狐の真後ろに
でっかい青筋を立てながらにこやかに微笑んでいる狼子の姿が有る。
「智狐ちゃぁん?ちょっとこっちいらっしゃいな?」
ワシっと肩を掴まれた智狐が、
「助けて狐子ちゃん……」
と涙をダーっと流して微笑みながら必死で助けを求めてくる。
だが、狐子はふっと冷笑しながら
「狼子先輩、さっき智狐が先輩の悪口を一ダース位言ってましたよ。
たっぷり、お仕置きして上げて下さいね♪」
と言い放つ。
「ふうううううん?智狐ちゃんは同郷の先輩にそういう態度なんだぁ?
今日はじっくりとお説教しなきゃね〜?
コレは智狐ちゃんの為なんだから、感謝してね」
ギリギリと肩に食い込む狼子の手の痛みに、智狐は声すら上げられない様だ。
「じゃあ、狼子先輩お願いしますね〜!
智狐ちゃん、しっかりご指導してもらって来てね!」
ふっと侮蔑の笑いを投げ捨て、歩き出す狐子の背中に、
「裏切りモノぉぉぉぉ!!」
という智狐の魂の叫びがこだました。
「やれやれ、まだまだこの先波乱含みなキャンパスライフになりそう……」
溜息交じりに呟く狐子だったが、その口調は以外に楽しそうな色も含んでいる。
「さ、こんどはもっとまともな男見つけなきゃね!」
にっこりと微笑む狐子の唇から零れた牙が、陽光を浴びてキラリと光った。
二人のキツネの廻りには、まだまだ騒動が続きそうだ。
キツネツキ! 終
こんにちは、石神です。
読んで下さった皆様、ありがとうございました!
小説を書くのがこんなに難しいなんて思いませんでした……。
正直、身の程知らずに浮かれていた自分を反省してます。
でも、懲りたりなんかせずに、頑張って勉強して今度はもっとまともな作品を皆様にお届けしたいと思います!
その時には、また読んで頂ければとっても嬉しいです!
本当にありがとうございました。
最後に、この企画を頑張って企画、運営して下さった春エロ様と、完結させる気力を無くしていた私を叱り飛ばして、気持ちを奮い立たせてくれた大好きな私のおじ様、羽沢将吾センセイに心からの感謝を込めて!ありがとうございましたっ!!
それでは、また逢う日までご機嫌よう!!
石神 穂波