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第三話 危険な合コン

「かんぱーい!」

学校近くに在る、付近の学生やサラリーマン御用達の安くて美味しい居酒屋。

集まったのはオトコ五人にオンナ七人。

不参加の筈だった狐子が智狐によって半ば無理矢理参加させられたので、

男女比が狂ってしまった。


「も〜、だからヤダったのにぃ」


巨峰サワーをぐいっと飲み干し、ケラケラと陽気に笑う智狐を睨みつつ呟く狐子。

狐子の横にはニヤけ面の軽そうな男が座り込んで、狐子を口説き始めている。

智狐は既に二人の男を侍らせて上機嫌だ。

そして、余った二人の地味目な娘の憎しみの篭った視線が狐子と智狐に突き刺さる。

それにしても、智狐の言ってたアレは一体どの男だろうか?

いつもならアレがどんなに隠そうともハッキリと解る筈なのに……

大きく溜息を付いて、しつこく話し掛けて来るニヤケ面を

適当にあしらおうかと口を開きかかった時、


「やあ、遅れてゴメンね!」


と爽やかな声で挨拶をしながら、本日の男の中でぶっちぎりのイケメンが現れた。

「レイ遅いぞ!ペナルティだペナルティ!」

男側の幹事がイケメンに向かって口を尖らせながら文句を言う。

「悪い悪い、ちょっと教授に呼ばれちゃってさ」

人懐っこい笑顔を浮べながら靴を脱ぎ、座敷へと上がりつつ自己紹介をするレイ。

その瞬間、狐子と智狐の背筋にピリピリとした電流の様な感覚が走った。


”来たよ、狐子ちゃん!彼ね”

智狐がチラッと狐子を見ながら嬉しそうに精神に直接話しかけて来る。

”って、ちょっとヤバいんじゃないの!?かなり強そうよ”

しかし、狐子は今まで遭ったどのアレよりも強力なピリピリ感を感じて不安になっていた。

”う。確かに……でも、きっとメチャクチャ気持ち良くて美味しいわよ。二人なら大丈夫よ、きっと”

”あんたねえ、それでこの前やられ掛かったの忘れたの!?”

全然懲りてない智狐にうんざりしながら狐子はもう一度レイを見る。

と、いつの間にかレイがこちらを見ていてニヤリ、と微笑んだ。


ゾクっとした強烈な寒気を感じて、狐子の本能が”ヤバイ!”と警鐘を鳴らし出す。

智狐に彼は止めよう、と念を送ろうとした瞬間、

「キミ、可愛いね。智狐ちゃんっていうんだ」

レイが智狐を挟んでいた男の一人を退かし、馴れ馴れしく智狐の肩を抱きながら座った。

「ありがとうございま〜す♪でも、いきなりコレは無いですよぉ」

にっこりと微笑みながら智狐が肩に廻されたレイの手を摘みあげてどかす。

「ありゃ、イヤだった?こりゃ失礼!」

おどける様に笑いながらレイが智狐から手を離した、が

狐子の目には肩から離れた筈の手がそのまま残っている様にしか見えない。

いや、退かした手とは別の、普通の人間には見えない手が智狐の肩に残ったままだった。


「智狐、ちょっとトイレ付き合ってよ」

レイが残した霊手に智狐は気付いていない。

このままじゃ、あの手が智狐に何をしてくるか解らない!

狐子はちょっと無理が有るな、と思いながらも智狐と連れトイレに誘い、

「うん、良いよ」

智狐もそう言いながら立ち上がり、狐子と一緒にトイレへと向かった。

智狐の隣に並んで歩きながら、レイが残した筈の手を確認すると

既に離れているのか全く見えないし気配も無くなっている。

「ねえ、あんた気付いた?あんたの肩に彼の霊手が残ってたの」

トイレの洗面台に並び、小声で智狐に聞く狐子。

「えっ!そうなんだ。道理で違和感有る筈ね」

あちゃあ、といった顔で驚く智狐に

「ねえ、彼はヤバいわ。今まで見てきた中で最高クラスの”鬼”よ」

と少し震えた声で言う狐子。


”鬼”……


全ての人間が内包して生まれてくるが、それに気付き、自覚し、

そしてその力を行使出来る様になる人間は少ない。

だが、もしその力を行使出来る様になったとすると……


「遅いじゃない、二人とも」

「きゃっ!」「ひゃあっ!」

突然背中に掛けられた言葉に驚いて振り返る二人。

そこには、さっきの爽やかな微笑ではない邪悪な笑みを浮べたレイがすうっと立っていた。

「ここは女子トイレなんですけどぉ?」

智狐が後退りながら震えた声で注意する。

「うん、解ってる。大丈夫、外の人間は皆寝てるから」

「なんですって!?」

狐子がハッとした様に時計を見る。

腕に巻いたGショックのデジタル表示が全く進まなくなっている。

「時間を止めたの…?」

智狐と狐子の顔がさーっと蒼ざめる。

蒼くなった二人の顔を愉快そうに見ながらレイの笑いがいっそう邪悪に深くなり、

「旨そうな狐を二匹、まだ未熟なうちに喰っちまえるとはな」

ぐん、と奇妙に歪んだかと思うと皮膚がぐんぐん赤くなっていく。


「ごああああああっ!」


全身を真っ赤に染め、床を震わすような雄叫びを上げるレイの姿は

既に人間のモノでは無くなっていた。



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